第11話 ナッピ

 島国エイレンに到着。

 北半球に位置しているため、夏だ。ヴィヘルタよりも北にあるため、じゃっかん涼しい。

 ウレペウシ号を降り、三人は港を移動中。

「あの文字は」

 ソレ=ガシが見つけたのは、建物の看板に書いてある文字。ひらがなのように見える。

「読めないね」

「オレにもさっぱりだ」

「ほう」

 ソレ=ガシに読めることは言うまでもない。あごを手で触るしぐさの魔王まおう。なぜ二人に読めないのかを考えている様子。

「ジャマだ」

「もっと端っこ歩きな」

 ここでは、風当たりが強い。

それがし以外には厳しいですね」

「その服、人数分手配できないのか?」

「でも、女性はすこし服装が違うみたいよ」

 ミナが指差す方向で、一目でよそ者だと分かるスーツ姿の少年が叱責されていた。

「あっ」

 気づいたミナが割って入った。

「また、よそ者が」

「仲間?」

「そうに違いないわよ」

「よってたかって、ひどいじゃないですか。やめてください」

「ふん。まあいいわよ」

 ミナの魔力の高まりを感じて、三人組は去っていった。

「だいじょうぶ? 私は、ミナ」

「俺は――」

 背のひくい少年は、ナッピ=オニスタと名乗った。


「これはひどいですね」

「こっちもだ」

 長距離を旅してきたウレペウシ号は、あちこちにガタがきていた。

「お願いします。部品を分けてください」

「修理を手伝ってくれよ」

 船を降りた船員たちが技師に助けを求めるも、断られ続ける。

 部員たちの何人かはおろおろするばかり。

 ほとんどの人がウレペウシ号を降りて、技師を探していた。ソレ=ガシたちも。

「ふぅん」

 紺色の髪の少年は、何かに納得した様子で息をはいた。

「ナッピは修理できる?」

「無理」

「大変ですね」

 ソレ=ガシは、いつものように我関せずといった振る舞い。

 このままでは出航できない。一人で飛べる魔王まおうと違って、ほかの大勢はこの異国の地に取り残されてしまう。

「なんとかできないのか」

「そう言われても、困りますよ」

 そんな中、一人の少女が名乗りを上げた。十代前半に見える。作業着姿。

「ボクがやってあげようか?」

「ガキはひっこんでな」

「ガキじゃなくてアイカ。アイカ=ネイチ」

「ちっ。うっせーな」

 ケルオに対して、栗毛の少女が強い口調で反論する。

「うるさいのはどっち? そこは、部品ないと無理だし。あっちを直すのは難しいと思うよ」

「遠くから見ただけで分かるの?」

 ミナのキャロットスカートが動く。驚きを隠せていない。

「えへへ」

 高い魔力のなせるわざ。少女は凄腕の技師だった。

「では、よろしくお願いします」

「……」

 ケルオは、何も言わなかった。

「よっと」

 船に乗り込むアイカ。次々と修理していく。

 その動きは、まさに芸術だった。小さな天才技師があっというまに直してしまった。すでに甲板でくつろいでいる。

「もう終わりですか」

 ケルオの銃をいじりながらソレ=ガシが言った。

「それ、見せて」

 アイカがいじると、銃の性能が上がった。それを、見ただけで分かった人物がいる。

「マジかよ」

 ケルオが驚いた。

「ほかのハンド魔道砲まどうほうも見てもらったらどうですか。確かあと2本」

「ほんって、まぁいい。いや、よくない。2ちょうだ」

 組み立て式の長距離狙撃用と、一撃の威力重視のハンド魔道砲まどうほうも見てもらうことになる。

 整備が終わり、アイカが言う。

「ボクも連れてって」

「仲間に欲しいのはやまやまだが、ガキは苦手だ」

「つまり、連れて行かざるをえない状況を作ればいい、と」

 ナッピのつぶやきは、ミナとソレ=ガシにしか聞こえなかった。


魔族まぞくの力、見せてあげます」

 いろいろな手段で罠を張れたはずなのに、隠す気がないナッピ。

「興味深いですね」

「エト・スピリトゥス・サントス・ヴィス・アド・メ」

 ナッピは、なにかの呪文を詠唱した。スーツが波うつ。

「いでよ、魔物たち」

 港の地面に魔法陣が現れた。数え切れないほどに。

 そして、たくさんの魔物が湧きだしてきた。

「なるほど。こうなりますか」

 ウレペウシ号の甲板にいるソレ=ガシは動こうとしない。ナッピも同じく。

 下船したミナとケルオが、魔物たちと戦う。同じく船を降りたウレペウシ号の船員たちは、住民たちの避難誘導をする。

 髪を振り乱しながら、ミナが大声で問いただす。

「なんで、こんなことするの」

「ソレに関わる者は許しちゃおけない、って言われてて」

 ナッピも大声で反応した。ソレ=ガシは何も言わない。

「リヴィトか、それとも」

 次々と魔物を撃ち抜きながら、ケルオが呟いた。マントがなびく。

「だいじょうぶ?」

 アイカは、ナッピと戦わずに人々の治療に向かう。もちろん魔法で。そこを、ナッピが狙わなかった。

「あの魔物の名前は何ですか?」

「グレムリンが珍しい?」

 ソレ=ガシと雑談していた。

 魔力によって強化された蹴りがうなる。グリフォンが海まで吹き飛んだ。水しぶきが上がる。続いて右ストレート。リザードマンがきりもみ状態で倒れた。

 二丁拳銃が文字通り火をいた。魔法の力だ。バジリスクが燃え上がる。換えられる弾。水の弾が乱れ飛び、コボルトが倒れた。

 次々に倒れていく魔物たち。二人の戦闘能力はかなりのものだ。

「おや」

「やられちゃったね」

 ミナとケルオが魔物たちを一掃し、平和が戻った。

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