第2話絶体絶命

「ふっふっふっふっ、ふぁふぁふぁふぁ、あっはっはっは、どうだ愚か者。

 誰も助けになど来ないではないか、神々の罰など下されないではないか。

 もはやこの世界に神などおらん、王家がこの国の神となったのだ」


 この下劣非道な処刑現場に強制的に集められた、心ある全ての貴族が絶望を感じていたが、ただ独り聖女クラリスだけは全く動じていなかった。

 彼女はこのような事になっていても、まだ神々を信じていた。

 それを見つめる聖女クラリスの側仕えたちは、涙に暮れていた。

 彼女たちは身体を張って聖女クラリスを護ろうとしたが、当のクラリスから止められ、切歯扼腕しながらもその指示に従い、なすがままになってしまった。


 彼女たちにも聖女クラリスを助けたい想いがあり、わずかな希望もあった。

 例え神々が救いの手を差し伸べなくても、聖女クラリスの実家ボルド公爵家が、フラン王国一二の強兵を率いて助けに来てくれるかもしれないと思ったのだ。

 歴戦の勇将ボルド公爵ボドワン卿が、精強無比のボルド公爵軍を率いて助けに来てくれれば、王国軍やダンケル公爵軍など蹴散らしてくれると信じていた。


 だが、そのためには、援軍に来る時間を稼がなければいけない。

 自分たちが下手に抵抗すれば、獣欲を隠そうともしない王太子の私兵やダンケル公爵軍の兵士が、下劣な欲望を満たすために襲いかかってくる。

 そんなことになってしまったら、聖女クラリスが身体を張って助けようとしてくださるのは明らかで、処刑場と決まった悪魔の処刑台に着く前に、聖女の命が失われてしまう事になる。


 聖女クラリスの指示とわずかな希望にすがって、下劣非道な者たちへの抵抗を諦めた侍女達だったが、普通なら聖女の側から遠ざけられた時点で襲われていただろう。

 だが、王家で唯一仁愛の心を持ったアニエス王女が、近衛騎士を率いて侍女達を護ってくれていた。

 本当にわずかな人数でしかないが、王家近衛騎士や王家近衛徒士にも、騎士道や正義の心を持った者がいるのだ。


 彼らは一日千秋の思いで、ボルド公爵ボドワン卿が助けに来る事のを待っていた。

 だが、その願いは、王太子とダンケル公爵の謀略によって邪魔されていた。

 ボルド公爵家は、スペン王国侵攻を命じられ、領地を離れピレネ山脈を走破しようとしており、この危急を知らされたとしても、とても助けに駆けつけられない状態だったのだ。


 ボルド公爵ボドワン卿も、味方であるはずの自国王家から、何か罠を仕掛けられていると思っていた。

 本気でスペン王国のような大国に侵攻する場合は、王国の総力を挙げて攻め込まなければ、とても勝ち目などない。


 それを精強無比の軍を持っているとはいえ、ボルド公爵家だけに命じるなどありえないから、何か裏がある事は直ぐに分かってた。

 だから本気で戦わず、国境線に頑強な砦を築き、戦っているふりをしていた。

 だが流石のボドワン卿も、聖女を処刑するなどいう暴挙は、想像の埒外だった。

 

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