ACT78 聖女の矛
――いきなさい、貴女達の思うままに。もう貴女達が世界を背負う必要は無い――
クローディアとリッカは、眠りにつくその間際にそう誰かに囁かれたような気がした。
発射装置の前に立ち、ルーゼイは聖典刀の柄を模したレバーに手を掛ける。
「こちら〝聖女の矛〟管制室。手順開始。どうぞ」
「艦橋諒解。合図を待て。どうぞ」
艦橋に繋がる伝声管から飛んできた声は、ヴェルだった。
「管制室諒解。おいおいヴェル、艦長気取りかよ? どうぞ」
「俺にも何かやらせてくれよ兄貴。それにこれは総帥閣下が許可されたことだ。どうぞ」
「全く……合図を待つ。どうぞ」
舳先の嘴が大きく開口し〝聖女の矛〟の砲身が迫り出す。
その先には〝降星雨〟によって欠けて脆くなった〝揺り篭〟の空の傷が見える。
かつて紅の魔女――リッカがその力を以てしても砕けなかったその場所を、ルーゼイは目元の照準器越しに注目しながら、その瞬間を待った。
装置に火が入る。
二人の眠る硝子の容器が青白く煌めき、聖典術の、聖女の〝聖なる力〟が〝聖女の矛〟へと注ぎ込まれていく。
その様子に出力ゲージを確認していたルーゼイは目を見張った。
以前、デザンティスの大地へと放った時は苦しそうに上昇していた出力が、今は目まぐるしい勢いで上昇を続けている。そうして数十秒後には限界へと到達した。
船は、最後の針路修正を完了させた。
その瞬間、ルーゼイの見る照準器は目標の中心へとぴったり収まった。
「出力限界。照準良し――撃てます!!」
ルーゼイが叫んだ。
「撃て!!」
ヴェルが号令。
言葉を受け、ルーゼイは手元のレバーを一気に引いた。
閃光――
船首の砲口から、眩しく耀く光が凄まじい爆音を伴って射出され、一直線に伸びる光の柱を作り出す。それはさながら闇を斬り裂く一振りの剣の煌きのようだった。
光の矛が、空を覆う天井を穿つ。
命中。
あとは、ありったけの力をそこへ叩き込むのみ。
誰もが固唾を呑んだ。
誰もがその光景に祈っていた。
誰もが確信していた。
誰もがその光に希望を見出していた。
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