ACT61 希望
「……わかった。おねえちゃん達の想い、そして私の想い、今度こそ叶えて見せる」
言ってリッカは立ち上がる。
そして去ろうと一歩踏み出すが、それがウェンデレリアの姿を見られる最後の機会であると悟ったリッカは振り返り、見送ろうとしていたウェンデレリアの胸に飛び込んだ。
堪えていた涙が溢れ、ウェンデレリアの白い衣を濡らす。
「これで、本当にお別れなんだね……リア」
「泣かないの。私ならちゃんと居るわ。これからもずっと貴女の傍にね。姿はちょっと変わってしまったし、本人に自分がウェンデレリアである自覚は無いだろうけど」
「……え?」
目を丸くするリッカにウェンデレリアは微笑み、自分の黒い長髪を結んでいた赤いリボンを見せた。
そのリボンにリッカは思い出す。
初めてクローディアの手に触れた時、記憶の中でアスキスが母の形見としてクローディアに同じ赤いリボンを託していたことを。
「だって、じゃあ……ランセオン宮殿のウェンデレリアは!?」
「あれは正真正銘、私の身体。そしてクローディアも私。あの子、クローディア・クロリヴァーンはね、私とシュウ君が解き明かした〝絶望の時代〟の技術によって生み出された、云わば私の複製なの。貴女も知るように〝揺り篭〟には人の力で蘇らせた、かつて途絶えた生命が多く存在している。その技術の応用よ。でも私は、あの子を自分の複製というよりも本当の娘だと思っているわ。そして、私の愛する息子リューシンガは、同じようにして生み出されたもうひとりのグラウシュード・アクナロイド――かつてのシュウ君よ」
「り、リューシンガも!?」
「シュウ君と出会った時、私は既にリアという人間であったことを捨てて、蒼き聖女ウェンデレリアとなっていた。だから私に彼との子供を宿すことは叶わなかった。でも次の世界であの二人が生きていてくれるのなら私はそれでいいの。
……そうだ、もうひとつ貴女に言うべきことがあったわ。私はこの百年〝揺り篭〟の意思として存在してきた。その中で聖女でも知り得ない沢山のことを見てきたわ。そこで私は興味深い情報を知った。それは貴女にとっても希望となることよ」
「希望?」
「〝絶望の時代〟の人々が行った世界へ償いは二つあった。ひとつはこの〝揺り篭〟の建造。もうひとつは〝世界の再生〟――それを成し遂げる為に作られたのが〝聖典術〟という技術なのだけど、ならその源となる禁忌の術を封じ込めた書物〝聖典〟とは一体何なのか、貴女は知りたくない?」
「それが、希望に繋がるなら」
「この世の理と森羅万象を記したとされる〝聖典〟は、書物などではないの。古代の人類はそれを〝聖典〟と名付ける前はこう呼んでいた〝テラフォーミング・ナノマシン〟とね。それだけじゃピンと来ないでしょうから説明してあげる。この〝聖典〟はね、そもそも生物の住める環境にない世界を、生物の住める環境へと作り変えるために作られた目には見えないとてもとても小さな機械なの。その機械は〝揺り篭〟の空気の中を無数に漂っていて、それを操ることによって聖女は世界の管理を行ってきた。つまり〝聖典術〟とは、その機械に命令を与えて物理現象を創り出して操る、という技術。でも本来の使い方は今言ったとおりよ」
「じゃあ、やっぱり〝外の世界〟も、ちゃんと人の住める環境にあるのね?」
「そういうことよ――信じているわ、貴女とクローディアならきっとできる」
「わかった。ありがとう、おねえちゃん」
ウェンデレリアはリッカから一歩離れると、リッカの額に手を置いた。
「私はあなたを聖女と認め、世界の管理をあなたに一任します。リッカ・クロリヴァーン、どうかあなた達の担う世界が末永く続きますように」
ウェンデレリアは満足そうな笑みを浮かべて、リッカが去っていくのを見送った。
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