ACT47 世界の形

 聖典騎士団に扮した革命勢力〝聖女騎士軍〟がスレイツェンの町を、学園を、そして古城を取り囲んでいく。

 リューシンガとルーゼイ、そしてクローディアのみが古城の内部へと進み、大広間へと辿り着いていた。

『我に与えよ〝照らせし灯火スギル・エタ・ニムリ〟』

 リューシンガとルーゼイはそれぞれ引き抜いた聖典刀の刃に光を纏わせ、光源を確保した。

 その眩い光は吹き抜けの先までをも鮮明に照らし出す。

 不意に天井を見上げるクローディアは違和感を覚えた。

 外から見た古城と、中から見上げる古城。

 目測が正しいのならこの吹き抜けの天井はそのまま塔の裏側となっている。つまり、最上層にあると言われている玉座の間となるべき場所が存在しないことになる。

「……何も無い」

「今に伝わる過去の歴史と同じく、このスレイツェン城の天守も偽りだ。だが、真実とは常に目に見える形とは限らない。そしてそれを本当に追い求める者にこそ、真実は訪れる」

 リューシンガが聖典刀の光を床に向けた。

 オイルランプの光ではただ石畳が敷き詰められているだけのように見えた床だったが、その聖典術の光に照らされることによって床は別の形を見せるようになった。

 浮かび上がったのは、無数の図形が組み合わされて作られる左巻きの螺旋の模様であった。

 大広間の中央にまで歩くと、リューシンガは螺旋の始まる最初の石に聖典刀を突き立てた。

 すると、それまでただの石でしかなかったそれが蒼白く輝き、まるで液体の中に沈めるかのような滑らかさで聖典刀を飲み込んでいった。

 やがて鍔まで一気に押し込んだとき、感触があった。

 聖典刀を回す。

 がちり、という鍵の開くような音がした。

 瞬間。

 床が揺れた。

 螺旋を描いていた床の模様が次々と段を作りながら地面の下へと沈んでいく。そうして、あっと言う間に床は地下へと続く巨大な螺旋階段へと姿を変えたのだった。

「凄い。この古城にこんなからくりがあったなんて」

「恐らくこの螺旋階段は〝プレート〟の下にまで繋がっている」

「〝プレート〟ですか?」

「この世界には、上に空を映す〝天井〟があるように、下にも地面を支えている〝床〟があるんです。そしてその床の下には、今の技術では到底造ることのできない巨大な支柱が無数に聳え立っていて、この世界と外の世界を隔離しているらしいのです」

 階段を降りつつ、ルーゼイがクローディアに説明する。

「鶏の卵を想像するといい。天井から続く〝外壁〟は海の果てで大陸の下に潜り込んで床となり、この世界を外の世界から隔離、保護する〝殻〟の役割を担っている。そして我々が居る大地や海は、云わば〝黄身〟というわけだな」

 リューシンガが言った。

「あの、外の世界というのは……?」

「天井の殻を越えた先にも、世界があることだけは判明している。我々の祖先はそこからこの世界〝揺り篭〟に移住してきたのだからな。しかし、何故そうしたのかは明らかになっていない。もしかすると過去にも一度、世界は滅びていたのかもしれないな」

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