モンストルム・デアデビル

@west4610

第1話 プロローグ


 夜10時。

 いつもなら人でごった返す東京駅は現在、自衛隊員達しか存在していなかった。

 自衛隊員達はまるでこれから戦争でも起こるかのように武装しており、それは日常とは掛け離れた光景だった。

 彼らの周りには大型のトレーラーが何台か停車し、内部にある大型の蜘蛛の様な機械を露出させていた。


「物々しいわねぇ……東京23区全部を自衛隊に封鎖させて挙句完全武装?」


 そんな東京駅近く、駅ビルの屋上に現状には似付かわしくない格好をした人物が二人存在していた。

 一人は大型の中継カメラを背負った男性。

 もう一人は恐らくキャスターなのだろうか、動きやすそうな格好をした女性がマイクを持って隠れ潜んでいた。


「その中でもこの場所は特に重武装、やっぱりタレコミ通り此処に来るわね……新人君いつでも放送できるように準備しておいてよ?」


「せ、先輩……やっぱり止めましょうよ、ヤバイですよ……」


「なに怖気づいてるのよ、あんたそれでも報道関係者?」


「いつもの浮気現場を張るのとは違いますって、今回ばかりは……! 今回のこれ怪人絡みでしょう?」


 鼻息を鳴らしながらまだ見ぬ特ダネに興奮するキャスターと違い、新人カメラマンは怯えた様子を隠せない。

 

「魔人ネタはやばいですって、先輩も怪人ネタ追ってた同業者が何人も消されたって噂知ってますよね?」


 それに、と新人カメラマンは不安そうに言葉を続けた。


「先輩だってプロデューサーに釘刺されましたよね? 大体今じゃ前と違って世間も魔人に対して批判的ですし正直このネタ追っかける意味──」


「……分かってるわよ、それ位」


「え?」


 新人の言葉に、キャスターは手に持っていたマイクを強く握りしめた。


「確かに魔人は当初は悪を裁く正義の味方、みたいな売り方で民衆の支持を手に入れたわ」


「でもその後あの事件で民衆の支持は一転、今度は身勝手な悪人という立場に追い込まれた……」


「その通りよ、でもだからこそ何が真実なのかを私は知りたい。 彼らが本当に身勝手な悪なのか、それとも本心から人を救おうとしているのか」


 彼女は肩を震わせながら続けた。

 

「あたし達は真実を報道することが仕事よ、今ここで何もしないで誰かの言う通りに見ない振りをしたら私は自分に自分を誇れないのよ」


「自分に、誇れる……」


「ふふっ、そうよ。 自分に誇れることをしろって、そう言ってきた子供(ガキ)が居たのよ……本当にお節介な子が」


「正直、よくわかりません」


「良いのよ、あんたまだ若いんだもの、だから逃げたいなら逃げても良し、あたし一応カメラ回せるし」


 キャスターの言葉に、男は首を横に振った。


「よく、わかんないですけど……自分に誇れる事をしろって台詞は気に入りました」


「なら、あたし達で伝説作っちゃう?」


「はい! やってやりましょう!」


 キャスターは振り返り、笑みを見せた。

 カメラマンもまた、先ほどまで見せていた不安げな顔を吹き飛ばした、恐らくは人生で一番の笑顔を見せた。

 その直後、彼等を熱波が襲った。


「来た! カメラ回して!」


「了解です!」


 熱波は東京駅の正面にある広場からだった。

 高層ビルの高さを超え、天を焼き尽くす様な火柱が数本立ち昇っていた。

 その大きな火柱は周囲の木々や建物を燃やし、更には火柱の周囲に居た自衛隊員等も巻き込んでいった。

 数本の火柱はそうやって円を描きながら、最終的には一つの柱になるとそれは徐々に小さくなった。


「す、すごい……」


「あっつ! んもう、相変わらず派手にやるわね!」


 降りかかる火の粉を払いながら、キャスターは毒づいた。

 そんな中でもカメラは回り続け……火柱が消えた場所に立つそれをカメラに捉えた。


「あれが、魔人……」


 雄山羊の様に丸まった角。

 梟の嘴を象った仮面、鮮血に染まった手と自らの権威を象徴するような服、赤々と燃える炎が形作る羽と蛇の尾を持つ人間。

 それが魔人の姿だった。

 自衛隊員達は魔人の姿を視認すると、即座に構えていた銃を発砲した。


「皆さま、帝都放送の飯田でございます! 早速ですがこれをご覧ください!」


 飯田と名乗ったキャスターは自らの立場と名を明かすと、自らを映していたカメラを直ぐに銃撃を受ける悪魔へ向けさせた。


「今、東京駅丸の内駅前広場に魔人が現れました! 皆さまもご存じの通り、魔人は現在大量虐殺並びに首相暗殺の容疑で全国指名手配となっております!」


 カメラに映った魔人と呼ばれる人物はその肉体で銃弾を弾きながら、自衛隊員の一人へ向け突進する。

 人間の常識の範囲外の速度で迫った悪魔は、そのまま銃撃を行っていた自衛隊員を蹴り飛ばすとすぐさま別の自衛隊員へ襲い掛かった。


「彼等は現在この世の悪であると、そう世間からは断ぜられております! しかし、しかしです!!」


 魔人が数人の自衛隊員を薙ぎ倒すと、形勢を不利と断じたのかトレーラーに搭載されていた大型の蜘蛛型兵器が起動し始めた。


「彼等は本当に悪なのでしょうか、彼等は本当に悪だと処断され葬り去られるべき存在なのでしょうか!?」


 蜘蛛型の兵器は、その前足部分からロケット弾頭を一斉に発射し自衛隊員諸共魔人を吹き飛ばそうとする。


「皆様には、今一度思い出していただきたいのです!」


 しかし、それらが発射されたのを視認するや否や魔人は右手を水平に薙ぎ払う。

 するとその腕の軌跡を辿る様に爆炎が広がり、蜘蛛型兵器ごと弾頭を吹き飛ばした。


「今年の始めに起きた事件から、今に至るまでに起きた全ての魔人による事件を!!」


 ──このジャーナリストの言葉を皮切りに、時間を少し巻き戻すこととしよう。

 この、魔人達の物語が始まった最初の時間へと──。

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