純菜さんは、いつも無双する

宇田華

第1話 西暦2221年某日


その日も、熱かった。




「いったい何なんだ、これは・・」




そこには、初夏の夕日をあびる、死ぬほどレトロな自動販売機が置かれていた。




自宅近く、大阪城公園内のある休憩所。




確かに、以前から、ここには様々な自動販売機が置かれていた。



毎日の通勤で通っているんだから間違えるはずがない。



ここに、これほど古い型のモノが置かれている記憶はなかった。




いや、絶対にこんなレトロな代物は無かったんだ・・




考えるほど違和感しか出てこない。




でも、意識した事も無かったので何とも言えないか。





「まあ、いいや。」




僕は、何世代も前の・・いや、これぞ第一世代自動販売機と言っても何ら差しさわりの無い、古い自動販売機の前に立ち、そして、今、それに強く惹かれている。


その雰囲気に魅了され、他の事がどうでも良くなってしまっていた。


初恋の相手みたいに惹かれる。


こんな気持ちは、初めてだった。




「ついさっきまで、明日の仕事。ある理論のプレゼンテーションの事で頭の中が一杯だったのに・・悪魔に心を握られたのか」





章夫が、生まれてくる、ずっと、ずっと前の代物だ・・


こんなの、ほおってはおけない。


え、何故?




ガラスの瓶に入ったコカ・コーラの誘惑は、なぜだか分からないのだが、何時も飲んでいるコーラーとは、まったくの別物のように感じるのだ。




それもあるが、彼は、この何とも言えない大きな箱が、


人様にモノを売り付ける様をどうしても見たかったのだ。




最初に、これを考えたやつは、天才だな。


それも、悪魔的な・・


僕は、ふと、そんな風に考えた。




たいそうなブランド物の財布から100圓玉を取り出す。




「100圓もするのか?」


「今時、コーラなんて、コンビニなら50圓以下で売ってるぞ・・」


「まあ、この場合10000圓でも買うけれどね・・」






早速コインを入れるも、コインは素通り、この自動販売機のセンサーが馬鹿になっているのか・・お金が認識されない。




「くそっ!」




何度、お金を入れても、下の釣銭出口から戻ってきてしまう・・



100圓玉を別のと変えるも同じように、素通りで帰って来る。



「販売ランプは点灯している・・壊れてるのか?」




何度やっても同じ、




「あ、そっか。もしかしたら、昔の100円硬貨じゃないと駄目なのかも」


「・・言うか、あたり前じゃん、圓では駄目だ。」


馬鹿らしい、時間を無駄にした。



知的で冷静なアキオは、少しムッとするも、あきらめて家路につく・・




「また、明日来るからな!」




そう言いながらその場を去った。




些細な出来事ではあったが、不思議なくらい彼をワクワクさせていた。




そこから、彼の家までは、歩いて5分ほど・・


家までと言うか、お堀のゲートまで、家路に向かう道を歩きながら考える。




明日のプレゼンが終わったら、


一番にデパートの古銭屋に行って昭和の100円玉を探しにいこう。


そしたら、あの自販機でコーラを買えるかも・・


そう考えると、もう、他の事がどうでも良いくらい、わくわくして仕方がなかった。




でも、どうせ、官の奴らに打ち上げとかに誘われるんだろうな?


なんて言って、断ろうかな・・


嫌だなあ・・





考えてる間にゲートに到着。


ゲート。


そして、その奥にそびえる大きな建造物。


かの、有名な大阪城だ。




ゲート前の詰め所で、両目と両手をスキャンし簡単な認証をする。


モニタには、梅鉢の家紋が表示されている。




青木章夫 上級国民(士族)


user rank オーナー




ゲートが開き、そこから近代的といえる、お城の全貌が明らかになった。


西暦2221年、遥か久しく個人の住居になり、美しく改装された大阪城。


お堀の上の通路も、その景観を崩すことなく美しくライティングされている。




城の方から浴衣を着た、可愛らしい女の子がふたり歩いて来る・・




「おかえりなさい、アキオ。」


「おかえり、おにいちゃん。」






ただいま、


母さん、初音。








つづく・・

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