日常奇譚

山岡咲美

街灯の河童

 僕はガラガラっと家の引戸を開ける、古い日本家屋のじゃりじゃりとした土の庭を歩きアスファルトの道に出る。


 僕は田畑に囲まれた夜道を歩くのが好きだった、真夏の蒸し暑さを忘れたかの様な道路は心地よく虫の声もうるさくは感じない、雲のない空には星が煌めいていた。



 アイス何にしようかな?



 僕はよく日が落ちてからここいらに一軒しかないコンビニに通った、夜のコンビニは人も少なく落ち着いて雑誌を読んだりゆっくり買い物したりとお気に入りの場所だった。



 街灯の下だと星は見えないんだ



 道すがらポツンと白い街灯の光が僕の影を地面へ落とす、立ち止まり夜空を見上げフッと当たり前の事に気づく。



 明日の朝の食パンと牛乳、あとタマゴとソーセージ……



 コンビニは山の中を突っ切る県道に出て洪水対策で少し登り広い川を渡った先に在った、橋の歩道を歩くと橋上灯きょうじょうとうのオレンジの光が幾つも僕を照らし少し水位を下げた川がそれでもザウザウと音を立てているのが解る、そしてその先に川を渡った民家すら明るく照らすコンビニが僕を光に集まる虫の様に誘い込むのだった。



 何か夜のコンビニって落ち着くよね



 僕は雑誌コーナーで週刊の漫画雑誌をパラパラとめくり新作のお菓子やスイーツが無いか見て回ったあと今日買うアイスに目星を付けてからカゴを手にする。



 油切れてたっけ?



 僕は忘れないようまず油をカゴに、そしてそのあと食パンとタマゴと牛乳を入れ最後にバニラのカップアイスとチョコの棒アイスをカゴにそっと置いた。



「袋は要りますか?」



「ください」



 レジ袋は原油の有効利用だからエコ、更にゴミ袋として無駄無く使うからエコ、僕は誰に対してか分からない言い訳を頭の中で繰り返す。



「ありがとうございました」



 そう言うコンビニの店員さんに軽くお辞儀をしてコンビニをあとにする。



 タマゴを割らない様に……



 袋の重みを左右の手で持ち替え分散しつつ慎重に帰る。



 街灯の下に誰か居る



 この時間にコンビニ以外で人に出会った事なんて始めてだ、この辺りは家自体がまばらで少し離れた人は大抵車を使う。



 小さいな、小学生くらいか?



 僕は小学生は無いなと思いつつ近づくにつれソレが小学生、いや人じゃ無い事に気づいた。



 おっきい二足歩行のさんかな?



 決してとは認めたく無かった。



 ソレは街灯の白い光の下で僕と同じ様に夜空を見上げていた。



 そこじゃ星は見えませんよ



 街灯のスポットライトを浴び夜空に夢中なソレは緑の影を頭の皿と背中の甲羅の下へと落としコチラには気づかない様子だったので、僕は静かに街灯の光を避けながら河童の様なソレを回避して若干の早足で家へと帰った。



 鍵掛けなきゃ



 僕は普段は掛けない家中の鍵を掛けて回った。



 朝までゲームでもして過ごそうかな……



 僕のスマホのカレンダーには「ヤッバ!河童見た!!」のメモが残っている、ソーセージを買い忘れたがしばらく夜道を歩くのは控えるとしよう。

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