プラネット・レコード~あの星へ、私から~

常闇の霊夜

出会い別れ、また出会う。


「アナタのお名前を教えて?」


僕は昔、タイヨウと呼ばれる星を観察しに行き、そこで小さな星に墜落してしまった。そんな時、彼女が助けてくれた。少なくとも僕より幼いのだが、彼女は名前と言うよく分からないものを要求してきた。


「名前とは何だ?」


「知らないの?」


「あぁ。教えて欲しい」


彼女は少し考えて、僕にこう言ってきた。


「うーん……呼ぶ時に言う物?」


「……番号で良いのではないか?」


「そう言うのじゃ無いんだよね……なんというか、特別?みたいな感じで……うーん……」


やはり名前と言うのはその時は分からなかった。だが、彼女と少しだけ話して分かったような気がした。名前と言うのは特別で、たった一つなのだと。僕は名前が欲しくなった。


「……僕に名前を付けてくれないか?」


「いいよ!えーっと……じゃあ……」


それが彼女との出会い。そしてそれから一年たった。僕は宇宙パトロール隊に入団した。いつか彼女にまた出会いたいと願いながら。そして僕は今日も平和の為に働いているのであった。


「…い、おい!A21!」


「……」


「はぁーッ……『ギンガ』!」


「なんだい?」


「さっきから呼んでただろうが!」


成る程、先程から同僚が呼んでいたのか。道理でうるさいわけだ。彼女との思い出を思い出している時に話しかけてくるとは……


「すまないが『名前』で呼んでくれないかな?で、何だ?」


「リーダーが呼んでるぞ、何かやらかしたのかよ?」


「そんな事はしていないはずだが……まあいい、教えてくれてありがとう」


なぜ呼ばれたのだろうか、そういう訳で僕は所長の元に向かうことにしたのであった。


「なぜ呼ばれたのかわかるかい?A21」


「……」


「なんだその目は」


「『名前』で呼んでください」


「『ギンガ』、先月のα/β討伐はご苦労だった。それで今日君を呼んだのは他でもない、有給休暇についてだ」


「……あっ」


「その様子では、忘れていたようだな」


そう言えば今日で就職して一年たつ。だが僕は一度も有給休暇を取っていなかった。おそらく有給休暇を取れと言う話であろう。


「そうですか……では一か月間有給休暇を取りますね」


「そうしろ。……お前にも家族とかいるだろ?」


「いませんけど?」


「……」


という訳でこの有給休暇を使って、あの星に向かうことにしたのである。タイヨウの周りを回っているあの衛星に。口の悪いナビに座標の確認を頼む。


『とっとと乗れよ、あくしろよ」


「……相変わらずの口の悪さだな」


『この星に行くのか?辺鄙な星だぞおい』


「いいからやれ」


『オッスオッス』


相変わらずこいつは口が悪い。しかも意味不明な事ばかり喋る。昨日はヴィチューバーになるとか言い出した。ちなみに声は可愛いらしい。僕は一度もそう思ったことは無いのであるが。それで僕はあの星に向かったのであった。


『着いたぞボケ。黒塗りの高級船に追突しなくてよかったな!』


「どういう意味だ?」


『いいから行けよ』


どうやら睡眠している間に、この星についたらしい。ちなみにあいつは磁器迷彩システム?とか言うので隠れることが出来るらしい。さて。一年前のあの場所に、僕は着陸した。景色は大分変わったのであるが、この場所は変わっていないようだ。誰かいないだろうか。


「……」


うん、何かいる。おそらくだがタイヨウケンポウとか言う奴を行っているのだろう。一度だけ見たことがある。何か凄い奴だった。僕の宇宙船をマジで破壊しようとしてきたこともあった。あれ以来ケンポウは嫌いだ。


「おい……後ろにいる奴、出てこい」


見つかった!?ちゃんと隠れてたはずだが?!しかもこっち来たぞ!ってか子供!?いや待て、一年前もこんな感じの子供に思いっきりドつかれた……やっぱり嫌いだ子供のケンポウは。


「何じゃただの宇宙人か」


「リアクション薄くないですか?」


しまった……変なこと言っちゃったぞ……ここからどう誤魔化す……?


「宇宙人はおおよそ百年前に殴りかかったこともあったのぉ……大分昔のことで覚えておらんが……確かお主のような……」


「気のせいじゃないですかね」


「まぁそうじゃな!」


良かった誤魔化せたようだ。……たぶん僕の正体はもう分かっているだろうが……


「碑矩!おい見ろ!宇宙人じゃぞ!」


「待って!」


この子供はいきなり何を言い出すんだよ!?ってか誰だよヒカネって!?


「何ですか師匠……はぁ、彼が宇宙人ですか?」


「そうじゃぞ!……のぉ?」


「違います」


「否定してますが」


「ふむ……まぁいい。お主、名前は?」


「僕ですか?僕は『ギンガ』。……あなた達は?」


「わしは師匠じゃよ!でこっちの弟子が碑矩火焔という!……で、お主何しに来た?」


「そうだそうだ……『コウカミ ハナ』という女性を知らないだろうか?」


「知らん!」


それもそうだろう。彼らは全く関係ない一般人。とはいえ聞いておくことは他にもある。


「今は大正何年だ?」


「……師匠、なぜこの人は大正と言っているのでしょうか?」


「今は令和じゃぞ」


「……令和?令和とは何だ?」


この人たちは何を言っているのだろう、一年前に来たときは大正だった。……大正のはずだ。


「……ふむ、百年前、わしはここで一人の少女と出会った。……彼女の名前は鴻上こうかみはなといった。お主、宇宙人であろう?……地球は……365日で一年じゃ」


僕は悟った。僕のいる星では、一年は十か月、そして一か月……3650日。つまり僕が星を眺めている間、この星では百年間たっていた。それだけである。百年たって生きている人間は……会いたいと思っていた彼女は……この星に、いない。


「……」


「そっとしておいてやれ。……今は泣かせてやるのが一番じゃろう」


泣いた。ただひたすら泣いた。何度も泣いた。もう会えない彼女に伝わらない涙だけが、この場に蓄積していくだけだ。


「……あっオズか?……いや宇宙人なんだけど……今すぐ行くって?了解」


「誰に電話しているんじゃ?」


「オズですよ、宇宙人に会いたいっていう……めっちゃ金持ってる奴です。たぶんすぐ来るって言ってたんで……あ来た」


「あなた宇宙人!?名前はー!?」


誰かが僕を呼んでいる。でもあのこの物ではない。だってもう戻ってこないのに。


「ねぇ!あなた『ギンガ』って言わない!?」


「……え?」


「私!『鴻上 御厨オズ!』……もしギンガなら少し話を聞いてほしいのだけど!」


なぜその名前を……?その名前はあの子しか知っていないはずで……?


「よぅオズ。……なんだそのレコーダー?」


「これは明日打ち上げる予定だったレコーダーなんだけど……もしかしてと思って……持ってきたの!」


「へー……ギンガだっけ?聞いてみたら?」


そのレコーダーを僕は付けた。そこから聞こえてきたのは、間違いなく花の声であった。レコードプレーヤーを付け、その内容を聞く。


『ギンガ?……もし生きているのであれば……聞いてください。そして……もし他の誰かが拾ったなら……ギンガっていう人の元に、届けてはくれませんか?……あの人は、私に生きる意味をくれたのです。絶対に会いに行くと言われたあの日から、私は会いに行く為に、色々準備したんです。ロケット事業に人生をかけて……あなたに会えたらこういうつもりでした。……愛していましたって。……でももう私には……時間がないのです。……八十年前、ギンガ、貴方に会っていなければ……もう私は死んでいたでしょうね。……ギンガ。ありがとうございました……私は……この九十年間……一度もあなたのことを忘れることはありませんでした。……そして……ごめんなさい。あなたにさよならの一言も言えなくて。……大好きでした。一生愛しています』


「花……花……!」


彼女は待っていた。僕の帰りをただ待っていたのだ。それに、僕に会うために色々なことをしたのだろう。……僕は彼女をただ、待っていただけだった。


「……おばあさまは私に宇宙人がいると毎日のように、言っていました。……そして毎日、星を眺めて眠っていました。……あなたが『ギンガ』なのですね?」


「あぁ。……あぁ……!」


「……おばあさまに生きる意味と、理由を与えてくださり、ありがとうございました。……このレコードはあなたに上げることにします。……どうか持っていてください」


彼女は、ここにいた。僕と同じ、同じ星を見続けていた。


「……ま、これでよかったんじゃないのかの?」


「……だな。……オズ、よかったな」


「……今度、宇宙の話を聞かせてください」


「あぁ……あぁ……!」


僕はきっと、今日も泣くのだろう。それでも、僕は生きる。……彼女が生きたこの星で。僕は生きていく。


「……よかったら、おばあさまのお墓にお線香を備えてあげてください」


「……わかった……!」


「さて。帰ることにするか!」


「そうですね」


打ち上げられることのないレコードは、今日も僕の宇宙船の中で、静かに回っている。


『拝啓、鴻上花へ。

 僕にギンガと名付けてくれて。ありがとうございました。

 安らかに眠ってください』


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プラネット・レコード~あの星へ、私から~ 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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