パピヨンの黄昏~ある少女のau revoir~

鬼澤 ハルカ

卵の夢想

少女は幼い頃から蝶が好きだった。

物心ついた頃、両親に遊びに連れられた時に見かけて以来、自然とそれを好むようになっていた。

幼稚園に上がれば画用紙にいろんな色のクレパスで蝶の絵を描き、折り紙を手にすれば決まって蝶の形に折る。

この時点では、単に他の子より蝶が好きな変わった女の子というだけで両親も教員も、園の子供達も特に不思議には思わなかった。

だが少女は度々、口癖のようにこう言っていた。


「わたし、大きくなったらセカイで一番きれいなちょうちょを見たい…」


小学生になると、少女の蝶好きはさらに加速する。

クラスメイトとも遊ばず、図書室に入り浸っては昆虫図鑑を開き、それまで見たこともなかった様々な種類の蝶を眺める日々。

図鑑に限らず、蝶にまつわるものなら絵本でも児童書でも、何でも机に積み重ねた。

後に同級生の一人はこう語っている。


「普段はおとなしくてクラスでも目立たず、ほとんど笑いもしない地味な子でした…。今思えば、あの頃既にみんな心の内では違和感を覚えていたのかもしれません」


同級生曰く、彼女が蝶が載っている本を読む時の目は普段の振る舞いとは想像もつかない程に異様なまでに爛々としていたという。


少女の想いは加速を重ね、新たなる芽吹きを迎える。

10歳の誕生日、少女は母親にプレゼントをねだった。


「お母さん…私、ちょうちょの髪飾りが欲しいの…」


それまで同年代の女の子が好むようなファッション、玩具にすら殆ど関心を示さなかった娘の願いを聞いた母親は非常に驚いたが、その程度だったらさしてお金はかからないだろうと近所の雑貨店で売っていた子供用のお洒落なヘアアクセサリーを買い与えた。海のようなクリア・ブルーで、蝶の意匠が施されたデザインだ。

少女はそれを大層気に入り、以外いつも肌身離さず身に付けていた。それどころか眠る時や入浴時ですら傍らに置いて眺めていたそうだ。

以来、彼女はそれまでとは打って変わって明るい性格となり、他の女の子との遊びにも積極的に参加するようになった。

その頃には蝶への執着も鳴りを潜め、図鑑を眺める事も少なくなったという。

何故なら、どこにもいない、世界で一番美しい蝶が側にあったのだから…。

天使のような少女、二つの瞳…その傍らには常にクリア・ブルーの蝶が妖しくも、美しく飛び回っていた。












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パピヨンの黄昏~ある少女のau revoir~ 鬼澤 ハルカ @zaza_sorrowpain

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