離脱の作法

@Little-Lamb

001 機械風呂の愉悦

『機械風呂室』というプレートを見たとき、思わず笑ってしまった。

 私がその病院(園田病院という)に運び込まれ、医師の診察を受けた直後に移されたのがその部屋だったことがわかったからだ。

 八月二十日、救急車で搬送された。

 その年で三度目のことだ。

 あとから数えるとちょうど一週間で、私は点滴のスタンドを引きずりながら、いやむしろ杖の代わりにしながら、病院の廊下を歩けるほどにはなったのだ。

 私の症状は、いわゆる熱中症のそれで、かなり思い脱水だったが、その理由は暑さではなかった。

 固形物を摂取せず、四〇度のバーボンを飲み続けた結果だ。

 空き瓶の数は、本数より面積で数えたほうがたやすい。

 大きめの炬燵テーブルに癒着したようになっていたが、それの倍くらいの面積が、ジムビームの瓶をはじめとして、他の銘柄のウイスキーやウオトカの瓶で埋められていた。

 絵里子が家族とインドネシアに行ってしまってから、それを理由に酒量を増やした。

 増やしたと言うとなんだかすごく主体性があるように聞こえるが、飲みすぎへの罪悪感を減らすための口実だ。

 もちろん誰に対しての口実でもない。

 自分に対してすらない。

 じっさい僕は絵里子のほか、誰とも話していなかった。

 手元のiPhoneで脈絡もなく動画を見続けるだけの時間が、今にして思えばほとんど三日続いていた。

 

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