非凡高生

@chachakotaro

第1話 入学

「俺の名前は伏野昇一です。会科中出身です。よろしくお願いします」


ある少年は教室の黒板の前でそう言い、丁寧に頭を下げた。すると、あたり一帯から拍手が鳴り響き、伏野昇一と自己紹介をした少年はそそくさと席に戻った。


今日はある高校の入学式の日であった。二時間程度の入学式を済ませたあと、各教室に入り、軽く自己紹介をする。それがこの高校の入学式の日の一日の予定だ。


「それじゃ、次は女子始めてくれ」


伏野が所属することとなったこのクラスの担任、坂本はそう言うと、伏野がものすごく見知った顔が黒板の前に現れた。


「私は戌走陽菜って言います。出身中学は………さっき男子で後ろから4番目くらいに自己紹介をしていた伏野と同じ会科中で、所属していた部活も伏野と同じでサッカー部でした。よろしくお願いします!」


戌走はそう言い切ると丁寧に頭を下げ、笑顔で自分の席へ戻っていった。



*********


一時間後

廊下にて


「あのさぁ……」


「あ、伏野!どうだった私の自己紹介!」


あはは、と笑いながら近く戌走に対して伏野は眉間にシワを寄せながら、戌走の頬を軽くつねった。


「どうだった、じゃねぇ!お前、自分の自己紹介をするのにどうして俺の名前が出てくるんだよ」


「いやいや、私はただ伏野の魅力を皆んなに知ってもらいたくて!」


「魅力っていうほど俺のこと語ってねーし、あれは完全にこの高校三年間ずっとネタにされる奴だぞ!俺はまだ良いけどよ……」


伏野はそこまで言って、自分がつまんでいる戌走の方を見てみると、目を潤わせてやや俯き加減になっていた。

そんな様子の戌走に伏野は慌てて、頬をつまんでいた右手を離した。


「わ、悪い。強くつまみ過ぎたか?」


「……私はただ本当に伏野の魅力を知ってもらいたかっただけなんだよ。そして、伏野が人気者になれれば良いなって」


「………戌走」


伏野は怒ってしまったことに少しだけ後悔をした。

戌走は戌走なりに自分のことを思ってやってくれたことだと分かったからだ。


「本当に悪い、戌走。お前がそんな風に考えてくれていたなんて、わからなかったんだ」


「………伏野」


「だけどな、戌走」


「ん?何?」


「あれは自己紹介としてはゴミだぞ」


「えぇ……」


こうして伏野と戌走が想像もできないような高校生活の幕が切って落とされたのであった。

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