聖痕を持つ魔剣使い。~さらに強くなるために最高の器を探して転生したら、なにやら神に選ばれていました~

あざね

プロローグ 最高の魔剣使い、転生する。







「この身体では、やはり限界だ」



 俺は自分の身体に流れる魔力、そして総合的な能力を確認してうな垂れる。

 その上で結論に至った。魔族として生まれて研鑽を積んできたものの、元々の才能が枯渇している、という答えに。


 要約すると器に問題があった。

 魔力量をいくら増やしたところで、それを受けきるだけの器がなければ零れ落ちる。技術を鍛えようにも、器となる身体の能力が追い付かなければ意味がない。


 俺は魔剣使いとして、魔族の頂に立った。

 しかし、それだけでは物足りない。

 だから――。



「やはり、あの魔法を使うしかないか」



 俺は一つの魔導書を手に取った。

 そこに書かれていたのは、禁忌とされる転生魔法の詠唱。



「記憶を保持した状態で、次の生を受けることを可能とする魔法。デメリットとしては、今まで手にした能力をすべて棄てることになること――か」



 だが、俺はもう迷わなかった。

 記憶さえあれば、その後の鍛錬でどうにでもなる。

 俺が抱えている問題は一つだけ。この才能の欠片もない、貧弱な器だ。しかし、それもこの時をもって終わり。



「さぁ、行こうか……!」



 そう考えて、詠唱を開始。

 すべてを終えて、光に包まれた時だった。



「オルタ師匠……!」

「ん……?」



 一人の少年魔族が、俺の部屋に飛び込んできたのは。



「どうして、転生魔法なんか……!」

「あぁ、ディールか」



 彼の名はディール。

 こんな才能の欠片もない俺に弟子入り志願してきた、物好きな少年だ。ディールはその幼い顔をくしゃくしゃにして、光の中の俺を見つめる。

 そういえば、別れを告げるのを忘れていた。



「なにか言ってください、師匠!」

「そう、だな」



 必死に訴えかけてくる弟子に、俺は一つだけ伝えることとする。



「ディール。機会があれば――」



 小さく、口角を歪めながら。



「遥か未来で、また会おう」――と。









「…………成功、か」



 目を覚ます。

 どうやら転生魔法は成功したらしい。

 俺はゆっくり身を起こして、自分の身体を確認した。



「ふむ、人間の子供か」


 そして、鏡の前に立つ。

 どうやら俺が転生を果たしたのは、極々普通な少年のようだった。年齢はまだ六歳。名前をヒイロといった。

 転生した魂に記憶が定着するまでには、数年の月日を要する。

 つまり、この歳までヒイロはヒイロとしての生涯を普通に送ってきたわけだ。



「だが、今日からは少し違う」



 これからは、俺がヒイロになる。

 すべてを塗り替えるため、最高の器を探すために。



「さぁ、問題はここからか」



 そこまで考えてから俺は、ヒイロの身体を確認した。

 転生したは良いが、器が外れなら意味がない。そう思いつつ――。



「な、これは……!?」



 軽く、身体の中にある魔力を目覚めさせた。

 その時だ。



「なんだ、この器は……! 最高じゃないか!」



 ヒイロという少年の持つ、非常識なほど大きな器に気付いたのは。

 まだまだ魔力は乏しい。しかし、その潜在能力は――。



「凄い、凄いぞ……!」



 桁外れ、あるいは非常識。

 そういった言葉が似合うほどのものだった。

 その事実を知った俺は、感動する。あれほどまでに願った器が、ついに手に入ったのだ。前世での苦悩も、これですべて報われる。


 そう確信した。だが――。



「……? なんだこの、手の甲にある傷は」



 ふと、右手の甲にある傷の存在に気付く。

 違和感があった。俺はそれに誘われるように、その傷を確認して理解する。


 それが、またもや常識の埒外にあるものである、ということに。



「これは、まさか――」



 俺は目を見開いた。

 そして、その傷の正体を口にする。



「【聖痕】だと……!?」――と。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る