第3話 秋
「芸術の秋」
「スポーツの秋」
「食欲の秋」
—————とか言うが、
僕にとって、この季節は
「読書の秋」だ。
図書室の窓から、オレンジ色の木の葉達が舞い落ちる。地上には足場の踏み場もないぐらいの...
オレンジのグラデーションのじゅうたん。
そんな景色を眺めながら、ゆっくりまったりと本を読むのが好きだった。
中庭に1本だけあるイチョウの木は、黄金に輝いて見える。
その木の根本に彼女はいつも寝ていた。
読みかけの本で顔を隠して。
彼女はすぐ居なくなってしまったが...
僕の心が紅葉するのに時間は掛からなかった。
「おいっまた寝てるのか?」
「んーまた寝ちゃってた。」
彼女も僕も本が好きだった。
好きな本の話や、
好きな作家の話や、
あとは、たわいも無い話。
彼女の優しい笑顔が好きだった。
黄金のじゅうたんが...彼女をより輝かせていた。
借りた小説を返したくなかった。それを返したら...僕の恋が終わってしまいそうで。
でも返さなきゃいけなくなった。
彼女が転校をするのだ。
僕の心だけがこの景色に取り残された様だ。
最後の日に小説を返した。
「好きだ」
と綴ったしおりを挟んで...。
また「読書の秋」が来た。
窓からその風景を眺め、ある1本の木の根本に目をやっても...彼女は居ない。
黄金色のじゅうたんは、相変わらず
輝いている。
僕はパタンと本を閉じ、木の葉を蹴散らしながら帰る。
校門の外にもオレンジのグラデーションが広がっている。
その風景の中に懐かしい顔を見つける。
僕の心はまた紅葉する。
「やっと、会えた。」
彼女はいつしか僕に貸した小説を返す。
「私も好き」
と書かれた1枚のしおりが挟んであった。
2人の顔は紅葉していく...。
この季節に色々な物が実るように、
僕の恋も実った。
終
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