蝉と花火と恋と
howari
第1話 蝉の一生
蝉は、自らの使命を果たす為に地上へ上がり、
1週間という儚くも強い一生を終える...。
...僕の命もあと1週間だ。
僕も蝉の様に自らの使命があるだろうか?
この世に生まれてきた意味があるのだろうか?
...ミーン...ミーン
蝉の鳴き声が聞こえる...。
そう、あの日もこんな日差しの暑い夏の日だった。
「余命1年です。」と突然告げられた。
もう治らない病らしく、治療法も無い。
今まで何の楽しみもないまま、なんとなく生きてきたけど...
その言葉は、衝撃的で残酷だった...。
毎日普通に高校へ行き、あまりいるとはいえない友達と騒ぎ、普通に帰宅し、また朝、高校へと登校する...。
そんな当たり前の日常が、その1つの言葉によって変貌したのだ。
何をしていても、気力が沸かない。
「どうせ1年で死ぬんだから...」と
全てを諦めていた。
勉強も、友情も、恋も—。
儚く過ぎゆく日々の中で、
『死ぬまでにしたい10のこと』
を考えてみることにした。
①海外へ行ってみたい。
②テストで100点をとる。
③世界一美味しい料理を食べてみたい。
④彼女を作りたい。
...ここで行き詰まる。
こんな事ぐらいしかないのか?
①は...お金の事もあるので、難しいだろう。
②は...だいぶ頑張らないといけないし、今更っていうのもあるのでどっちでもいい。
③は...どんな料理かも分からないし、調べたり探している内に逝ってしまうかもしれない。
④は...1番叶えたかった事かもしれない。
きっと彼女が居たら、残りの人生は華やかなものになっていた。
手を繋いで登校したり、デートしたり、毎日電話したり。
今までの色褪せた景色が、青春色した景色になっていたに違いない。
実は...片思いの相手は居たのだ。
告白もしたいと思っていたが...
死を目の前にしても、そんな勇気は無かった。
本当に情けない...男だ。
あの衝撃的な出来事から約1年...
また暑い夏が来た。
今日も、病室に突き刺さる日差しが暑い。
僕の命もあと1週間...。
あぁ、このまま殺風景な部屋で
命が尽きるのを待つのか...?
...ミーン...ミーン
まだ、蝉の方が良かった。
子孫を残す為だけに地上へと這い上がり、
生きているわずかな時間だけで...
自らの使命を果たす。
儚いがカッコいい生き様だ。
僕はどうだ?
カッコいい生き方をしたか?
思い返す様に目を閉じた時...
僕を呼ぶ彼女の声が聞こえた。
「たっちゃん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます