第11話 水滴

 慣れというのは恐ろしいもので……。


「あ、まただ」

 時々、かみさんがそう呟く事がある。

「ん?どうした?」

「いやあ、また、あの水滴」

「ああ」

 結婚した当初から、時々かみさんの頭上から一滴だけ、水滴が落ちてくる事がある。

 即座に天井など、上を見上げるのだが、決まって水滴の形跡が無い。

 虚空から一滴だけ、水滴が降るのか?

 一体、何故?

 かみさんは霊感が強く、悪い霊がいる場所には近寄らない様にするくらいだった。

「悪い気配は無いよ」

 実際、水滴の降る前後に特に変わった事も起こらない。

 ただ、一滴の水滴が、決まってかみさんの頭上から降ってくるのである。

 端のうちは不思議がっていたのだが、何度も続くといい加減慣れてくるものである。

「あ。まただ」

「ん?」

 かみさんの頬に、無色透明の水滴が一滴。

「ああ、ホントだ」


 慣れというのは、恐ろしいものである。

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