7-3
「今日のホームルームは一味違う。
別に抜き打ち小テストをするとかじゃあないから安心しなさい。」
ドア越しに聞こえる子供の声に少しばかりの緊張を覚えた。
なんせ私は今まで一度も同年代の子供にあったことがない。周りにいるのは皆大人だから。
でも今日は違う
「今日は転校生を紹介する。入ってきてくれ」
ジェリーから借りた漫画で何度も見たことのあるこの展開
深呼吸をして扉を開けると、私の方に視線が集まった。
中には「ジープに乗ってた子だ」とか朝の登校時点で私を知っている子もいて体がこわばった。
「五十嵐灯と言います。
皆さんと共に学校生活を送れることを楽しみにして来ました。
...よろしくおねがいします。」
静寂が続いて耐えきれなくなってきた頃、一人の拍手が広がって気づけば皆が手を叩いて私に贈った。
少しだけホッとしてちらりと先生を見ると一番後ろの空いた席を指さして私の席を教えてくれた。
「質問タイムは各々でやりな。だからって皆が一斉に五十嵐に寄ったらびっくりするから気をつけるようにな。」
ゆるく、しかしちゃんとした理由を添えている先生の声や言葉は優しくてくすぐったい気持ちになる。
でも納得した。先生の影響を受けたから生徒も優しいのか。
「よろしくね、五十嵐さん。」
「うん...よろしく。」
席についたら前に座る生徒がこちらを見て笑っていた。
同じ制服、同じ黒い髪の毛、それ以外はぜんぜん違う。
ホームルームはすぐに終わって、各々が違うことをやり始めた。
次の授業で使う教材の準備をする人がいれば昨日見たテレビ番組の話や流行り物の話をする人。
そして...
「五十嵐さんってどこから来たの?
ここって私立中学なのにド田舎だから何もなくてつまらないでしょ?」
「スクールバスも通ってるけど市民バスを使おうものなら一日に出てるバスの本数が十本もないからね~。」
私に話しかけて緊張を和らげようとしているのか敬語は使わずにこの地域でよくあることを話していた。
「あの、私のことは好きに呼んでください。
いつまでも名字呼びは堅苦しいから...。」
すると皆がこちらを見て少しだけ柔らかい表情になった。
なるほど、やはり私を見定めていたのか。
子供であっても私が有害か無害化を見定めて問題ないかを確かめて受け入れるかどうかを決める。
そして私をどのグループに配属するかでさえも、自然に決められる。
「じゃあ今日からアカリちゃんって呼ぶね!
私は久本 美紀!皆は私をミキって呼んでるよ。」
「私は長島 希。アカリちゃんよろしくね」
「よろしくミキちゃん、希ちゃん...。」
新しい友達の名前に心をときめかせて挨拶をすれば色んな人が自己紹介をしてきた。
人というのは不思議な生き物だ。少し自分の中身の一部を見せればそれだけで心を開いているように見せる。
でもそれはこちらも油断してはならない
これからもよろしく人間の友達
どうか私の敵にならないでおくれ
「...。」
「どうしたんた勇利?」
「...女子がいて近づけない。」
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