1-8

「こんにちは~!


宅配ピザをお届けに参りました!」




外から聞こえるその声はとても明るくて聞いていて辛いものがある


それに傷にも響きそう



「はーい!


じゃあ大人しくしててね!」



明るい声でそう返す彼女はナイフをテーブルに置くと返り血を隠すために上着を羽織り、手をしっかりと洗ってこの部屋の存在を知られないためにドアを閉めて鍵をかけた。



痛い…なのにまた傷が治っていく



ぼんやりとする視界の中私は口元に流れた自分の血を舐めた。



「私の血…こんなに不味かったんだ」



もしかしたら最後の晩餐が私の血なのかもしれない


そう考えながらもその不味い血を口と中で味わいながら目を閉じた。















「……なに!?


きゃっ!」








なにかが破裂するような乾いた音が3発聞こえると私は目が覚めた。


音からして銃を発砲したんだ


一体この部屋の外で何が起きているのだろうか


今わかるのはその音と彼女が叫んでる声



それと……



「お前…その血は誰のだ?」



聞き覚えのある女性の声だった。



すると誰かがドアを叩く音が聞こえてそれと一緒に「誰かいますか!?」と問いかけてきてる声もした。



私はここだ



そう言いたいけどやめた


もしかしたらあの様子からして警察が来たのだろうと察した


もし私がここにいることが分かったらどうせあの研究所に戻されるのがオチだ





今度こそ逃げないとダメだ





そう考えるだけで力が湧いてくる


さっきはぶった斬ることの出来なかった鎖も簡単に切れた。


足に力を入れて立ち上がることも出来た



「フー…フー!」



興奮して呼吸が荒くなった


落ち着け…今の私ならできるはずだ


目を閉じて集中すると体が変化していくのがわかる



皮膚は鱗のように硬くなり、頭が冴えてきた


背中から生えてきたそれに触れるとそれも私の体の一部なのだと理解出来るほどに感度がいい


頭から生えてる硬い角は少しだけ温もりを感じる…きっと体内で生成して生やしたばかりだからだろう。


この姿ならいける


これから入ってくる奴らを倒して逃げることだって可能だ



体制を低くしてこれから入ってくるやつに警戒するとその時は来た



カチャリと鍵が開く音がして更に警戒を強めるとドアノブを捻ってこの部屋に入ってきたのは予想通りの人物だった。



「ガウッ…!」


「うぉっあぶね…!?


さっきから血の臭いが酷いなと思ったけどまさかこんなことになってるとはね…」



相手を狙って飛びついたつもりだったのに簡単に避けられてしまった


それに相手は鼻をつまみながらこちらを睨むその瞳は黒く潤んでいる


そしてその手の隙間から見えたのは三日月のように弧を描く口だった。


どうして笑ってるの?


そんなに余裕があるというのか…だったら殺しやすい



尖った爪で相手を切り裂くように飛びつくと、ようやく私の存在が危険だと理解したのだろうか


冷静な表情でまた躱すと思い切り私を組み敷いた。



動けない…動かそうとすると腕も足も痛くてダメだった。



「ふぅ…ちょっとなにするのよ?


ねぇ、オカマのせいでこの子の警戒心が高くなってるじゃない!」


「いや…まだこのオカマのせいじゃないと思いますよ……


ああでもあの部屋を見るとオカマのせいにしてもいいですね」



私は今、化け物の姿をしているはずなのにどうしてあんたらはそんなに冷静でいられるのよ?



「グゥ……離せっ!」



私の声を聞いて彼女はこちらをむくと私の体を抑えながら私の髪を撫でた。


なんでそんなことをするの?


さっきから理解できないことが起こりすぎて私の頭の中は混乱に混乱を重ねているようだった。



「離せって言われても…獣人化した君を離せばどうせ外で暴れるでしょ?


それだったらこれ食べて大人しくしてなさいよ」



そう言ってポケットから棒付きキャンディーを取り出すと包みを剥がしてそれを私の口に突っ込んできた。


甘い…







「ふ…ふざけんじゃないわよっ!!」



その時になって私は異常になった彼女の存在に気づいた。


それなのにこの女は冷静さを忘れてなかった



「うるさいわね…あんたは今回の保護対象じゃないけど捕えて損は無いみたいね」



話が理解できない……だけどわかるのは





彼女の姿は






私と同じ化け物だったということだけだった。

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