1-4

「若者たちのファッションの聖地とも言われてるのがこの薔宿(ばらじゅく)


目がチカチカしてくるわ…。」



最新の目撃情報だとこの薔宿でターゲットがこのエリアを歩いていたらしい


確かにここまで目がチカチカするような場所なら義獣人特有の髪色は気にしなくていいものな



義獣人は幾多の実験により重なるストレスで髪色が変化してしまう


実際に義獣人隊の全員がすごい髪色をしてる


緑だったり白だったり青だったり…


そしてターゲットの五十嵐灯は夕日のように赤い髪色をしている。


普通の人々が歩く街だったらわかりやすかったけど、ここは薔宿


普通に髪の毛を派手な色に染めてる人もいればウィッグを被っている人もいるので分かりずらい


……これ今日中に終わるんか?



ため息をつきながらキャスケットを深く被り着ていた薄手のコートのポケットに手を突っ込んだ。


梅雨明けも近いのにコートとはこれ如何に…?


いや、別にいいのだファッションなんて


私に必要なのは見た目ではなく中身・性能だ


柔軟性のあるスリムパンツに低めのヒールのブーツを履いて、体のラインがわかるようなキャミソールに少し緩めのタンクトップを着ている。


地味に見えるけど仕事が出来ればそれでいいのだ。


例えばこの格好でクレープを食べたりカラフルな色のソーダを飲んでみたり若者のフリをして周りを見てみるがやはり居ない


人が多すぎるし義獣人と人間の見分けがつかないから余計にわからなくなってくる


参ったな…こんなことをしていると人混みに酔ってしまいそうだ


というか気持ち悪い



「(一旦裏路地に入って仲間に連絡しよう…)」



飲み干したソーダの容器をゴミ箱に捨てて空いた手を再びポケットに突っ込むとまっすぐ裏路地に入って深呼吸をした。


裏路地から表通りを覗いて見てもやはりターゲットは見つからない


ということはこの裏路地にいる可能性もあるな…


余計に難しい仕事になってきたなと考えるだけで頭が痛くなる


コーヒー不足もあってか更に疲れがたまる


さっさと保護して仕事場でもあるオフィスに帰りたい


ため息をつきながら裏路地の奥に進んでいくと横から衝撃が来た。


角と角でぶつかったのか


咄嗟にすみませんと言うと相手もワンテンポ遅れて小さな声で謝ってきた。


なにか急いでいるのか?


不思議に思いながらも走っていく様子をぼーっと見た





……急いでる?





「あいつかぁぁぁぁ!?


待ちなさいそこの少女っ!」



うっかりしてた


薔宿を歩き回っていた疲れとコーヒー不足で頭が全然回ってなかった。


自慢の足でダッシュをするとどんどんその少女に追いついていく


腕を伸ばしてその小さな肩を掴むともう片方の腕を彼女の腹辺りに伸ばして抱え上げた。



「はい捕まえた」


「くっ…離して!」



肩を掴んでいた手を離して深く被っていたフードをとると資料にある写真と同じ夕日のように赤い髪色をしていた。


ビンゴだ


「君が五十嵐灯?


お願いだから話を聞いてくれない?」


「やめて!


どうせあんたもあいつらの部下なんでしょ!?


また私に注射打つんでしょ!?」



おっと…かなり興奮して勘違いをしているみたいだな


きっと彼女も被害者の1人なんだ


頭のネジが外れた研究者に色んなことをされたのだろうな


人体実験…確か義獣人達は一人一人隔離された部屋で生活するんだっけか?


それにこの子はきっとドラゴンの義獣人だから他よりもずっと多くの実験を受けてきたんだろうな


1人で寂しかっただろうな


辛かっただろうな



「もう1人じゃないんだよ君も…」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る