愛し合う

美しい女は毎日美味しい飯を作ってくれた。


特に唐揚げは最高だった。


「亮介さんは本当に唐揚げが好きなんですね。」

「うん。アオイの唐揚げは日本一だ。」


俺が口いっぱいに唐揚げを頬張っていると...

彼女は幸せそうな顔をして見つめる。

俺も幸せそうに微笑み返す。


夢の様な時間だった。


「アオイは何でここに来たんだ?」

「...」


彼女は自分の事は何も話さなかった。 


「あなたの側に居たいだけ...。」

と言うだけ。


そう呟く彼女がとても愛しくて...

ぎゅっと腕の中に包み込む。

もう少し強く抱き締めると...折れてしまいそうだ。


俺は彼女に恋をしている様だった...。



コンテストまで後4日。


またろくろの前でしかめ面をする。


「どうしたんですか?亮介さん。」

「コンテストに出す作品が浮かばないんだ...。」


「ずっと落ちてばっかで、作品も売れないし...このコンテストで賞を取れなかったら、陶芸家を辞めようと思ってるんだ。」

「私は亮介さんの作品好きですよ。」

と彼女は作品をそっと眺める。


「力強いけど、繊細で...温かみがある感じが好き。」

「まるで...亮介さんの様。」

と彼女は顔を赤らめる。


まさか、彼女も俺を...?


不思議と彼女は俺の全てを受け止めてくれた。


彼女の艶やかな髪...

か弱い腕も足も...

身体も

全て俺のモノにしたい。


「アオイ...愛してる。」

「私も...。」


夢の様な夜が明けて...眩しい日差しがカーテンから漏れ、夢から覚める。


「おはよう!亮介さん。」


幻ではなかった...とホッと胸を撫で下ろす。

昨日あんなに強く抱き締め合ったから...

まるでアオイが消えてしまいそうだったんだ。

そう...あの時の蝶のように。



コンテストまで後2日。


「亮介さん、唐揚げをのせるお皿はどうですか?」

「おぉ、唐揚げ皿か!」


その時、アイデアの神か何かが降りてきた様な感覚があった。


「よしっ!」


ろくろを回す...神というのは凄い。あっという間に今までにない特別な皿が仕上がった。 


...でも何かが足りない。

明日までに送らないといけないのに...。


困った様子の亮介を見て

この人の役に立ちたい...とアオイは強く思う。


...結局

何が足りないのか分からないまま送る準備をする。

明日送ろう。いい仕上がりだけど...今回もダメだろう。


納得する作品が出来なくても、ゆったりした時間の中で

ろくろを回すのが好きだった。

この仕事が好きだったんだ。

もう土に触れることも、ろくろを回すことも出来ないんだと思うと...涙が溢れた。


「亮介さん、大丈夫。」

と彼女の細い手が強く抱き締めてくれた...。


腕を彼女の背中に回し、もっともっと強く抱き締める。 


会って間もないのに...

こんなにも人を愛せるのが不思議に思えた。

俺の夢がもう叶わなくてもアオイが居ればそれだけでいい。


「お前がこんなにも愛しい...ずっとずっと側に居て欲しい。」

その言葉に返事はなかった。


...でも一緒に居たい。


熱い口づけを交わす...2人の身体が一気に熱くなり...

昨日よりもずっとずっと...深い海の底へと潜っていく。

もう二度と戻れなくてもいい...。


...このままずっと...ずっと。

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