第91話 case91

『なんだよ… 言いたい事まだあったのに…』


くるみが不貞腐れながら歩いていると、本を読んでいた男性が目の前に立ちふさがった。


「そのヘアピンもだ。 渡せ」


男性はそう言いながら手を出してきたが、くるみは亮介から貰ったヘアピンを、渡すことを拒んでいた。


「いやだ」


「だったら戻れ」


「いやだ」


すると男性は「セイジのギルドがどうなってもいいのか?」と聞き、くるみはこぶしを握り締めながら、仕方なくヘアピンを渡し、男は無言で去ってしまった。


『汚い… 脅すとか… みんなを盾にするとか卑怯だよ…』


くるみはそう思いながらこぶしを握っていると、「あれ? 姫ちゃん」と言う声が聞こえ、顔を上げると太一と亮介が大きな荷物を持って歩み寄ってきた。


「どうしたの? てか、ブレスは? つーかその顔、どうしたの?」


太一に聞かれ、くるみは「ギルドやめてきた」と答えた。


「え? 早くない? まだ3時間も経ってないよ?」


「つまんないんだもん。 あそこ雑魚しかいないし」


亮介はクスっと笑い「だから言ったじゃん! 行こうぜ」と言い、ギルドルームに向かっていた。


くるみは中に入ることが出来ず、ドアの前で待っていると、セイジが中から出てきて、銀色のブレスレットを手渡してきた。


「銀? 黒じゃないの?」


「A+級は銀なんだよ。 ゴロが寂しがってるからさっさと入れ」


くるみはブレスを付けた後、「たっだいま~」と言いながら中に入ると、ノリが「おっかえり~」と言いながら返事をすると、ゴロがくるみに飛びついた。


「あっちのギルド、ギルドルームで私語厳禁だから、挨拶もなーんもないんだよ? ほんとつまんなかったぁ~」


「持ち物も全部置いてきたの?」


「うん。 魔法石は全部魔獣の皮にして置いてきた」


この言葉を聞くなり、セイジとノリは大声を出して笑い始めた。


「よくやった!! あれはマーケットに出しても売れないし、マーケットの場所取りに置いているだけだから、誰も買わないんだよ。 アイテム素材にするにしても、合成料の方が高くつくし、1つ上のランクである魔獣の毛皮を買った方が安く済むしな! あいつら、今頃頭抱えてるんじゃないのか?」


「そうなんだ! 大量に売りに出されてたから、片っ端から買い占めちゃったよ」


「出品者たちは今頃焦ってるんじゃないのか? マーケットは場所取りが重要だからな。 品物が無くなれば、店を畳まなければならないし、それを買い占めるってなぁ」


亮介と太一はその話を聞きながら、くるみを呼んで作成機に手を当てさせ、いそいそと装備作りに勤しんでいた。




その日の帰り、くるみは亮介と並んで歩いていた。


話しながら歩いていると、くるみが急に「亮ちゃんごめん」と切り出す。


「ん? 何が?」


「ヘアピンも取られちゃった… セイジ君のギルドがどうなってもいいのか?って言われて渡しちゃった…」


「ああ。 気にするなよ。 また出来たらあげるから」


「でもさ… せっかく作ってくれたのにさ…」


「【???】が面白そうだったから作っただけ。 つかさ、マーケットで会った時、頬が赤くなってたけどどっかにぶつけたのか?」


「ひっぱたかれたから、顔面グーで殴ってきた」


「あ、そ、そうなんだ… 生きてた? あいつ」


「たぶん。 わかんないけど」


「そ、そっか… い、生きてるといいな?」


くるみは少し落ち込んだ表情で「うん…」とうなずき、亮介は不安になりながらも、くるみと並んで歩いていた

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