第89話 case89

その頃、セイジたちのギルドルームでは、シーンと静まり返っていた。


特に、くるみをスカウトした張本人であるノリの落ち込みようは酷く、ボーっと壁を眺めるばかり。


セイジもゴロを膝の上に乗せ、ボーっとゴロを見ているだけだった。


太一はゆっくりと立ち上がり「俺、マーケット行ってくる」と言ってギルドルームを後にし、亮介もそれを追いかけていた。


太一がボーっとしながら歩いている横で、亮介は品定めをするように、素材や装備を見ていた。


「亮ちゃん? なんか欲しいものあるの?」


太一がボーっとしながら聞くと、亮介は品物を見ながら答えた。


「くるみが戻ってきたとき、すぐに使える装備を作っておいてやんないと…」


「え? だって戻ってくるって事はさ…」


「だからだよ。 くるみが無一文の素っ裸で追い出されたんだったら、俺らがすぐに拾って、着るものを準備しとけば良いだけの話じゃん。 今、俺らが出来ることは受け入れる準備を進める事じゃないのかな? 拾っちゃいけないなんてルールはないんだし、改めてスカウトすればいいだけの話だろ? セイジ君は受け入れ先がなかったってだけで、くるみとは違うんだしさ」


太一は亮介の言葉を聞き、一つの希望が見えたように笑いかけた。


「そうだね! 受け入れればいいだけの話だよね! んじゃ、買い物しちゃいますか!!」


2人はそう言いながら、マーケットを練り歩いていた。




その頃くるみは、イライラしたまま大きな熊の魔獣を前にしていた。


すると、本を読んでいた男性が、無数の氷の刃を飛ばし、魔獣を攻撃していた。


氷の刃は魔獣の目に刺さり、魔獣はその場で暴れまくっていた。


空を切る魔獣の攻撃を前に、本を読んでいた男性は、くるみの横を通るなり、フンっと鼻であしらう。


『こいつもクソ男か…』


くるみはそう思いながら片膝をついてその場に座り、アックスを肩に担ぐと、本を読んでいた男性はクスクスと笑い始める。


が、次の瞬間、くるみの怒りを表すように、アックスの柄の先端から、大きな氷の塊が勢いよく飛び出し、魔獣の頭を跳ね飛ばした。


血の雨が降りしきる中、くるみは呆然とする男性を横目で見ながら、フンっと鼻であしらい、魔獣の死骸の元へ。


くるみは魔獣の頭を掴んだ後、ゆっくりとメンバーに近づき、魔獣の頭をメンバーの足元に放り投げた。


女性メンバーからは悲鳴が上がり、一部の女性は嘔吐してしまう始末。


「素材、いらねぇの?」


くるみが言うと、シュウヤは拳を握り締め「舐めた真似をするな」と言い切った。


「舐めた真似? セイジ君のギルドはこれが普通だけど?」


「こんな野蛮な方法、S級が出来るとでも思ってるのか?」


「あ? S級? 雑魚級の間違いなんじゃねぇの?」


くるみの言葉を聞くなり、シュウヤは無言でくるみに掌をかざす。


が、次の瞬間、シュウヤの体は吹き飛ばされ、周囲はざわざわつき始めた。


「魔法出るまで遅いんじゃない? そんなんでよくS級なんて言えるね。 セイジ君の方がよっぽど早いわ」


「この…クソガキがぁ!!!」


大剣の男性がくるみに飛びかかるも、くるみはバックステップで躱すばかり。


幾度となく、大剣の男性が攻撃してくる中、くるみは攻撃を躱し続けていた。


『遅い。 亮ちゃんの方が断然早い』


くるみはそう思いながら男性の頭に乗ると、「装備に頼りすぎ。 マジ雑魚」と言った後、空高くジャンプをした。


くるみは着地と同時に踏み込み、アックスの柄の先端を男性のみぞおちに食い込ませる。


男性は「うげ…」と言った後、その場で蹲り、激しく嘔吐し始めた。


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