第49話 case49

亮介がくるみに近づけないままでいたある日の事。



亮介は3階にある修錬場で、くるみの事を考えながら、練習用の大剣を振り回しウォーリアの訓練をしていた。


『今のままじゃダメだ! 絶対にくるみの隣にいるんだ!!』


そう思いながら大剣を振り回していると、学校全体に緊急警報が鳴り、亮介の元に二人の男性教師が駆け寄ってきた。


「河野、手伝ってくれ」


「どうしたんすか?」


「訓練ダンジョンから魔獣が出てきた。 早く行くぞ」


亮介は急いで装備を変え、教師と共に駆け出した。




一方のくるみは、4階にある教室で、補助魔法の授業を受けていた。


受けているといっても、マスターしているくるみは、ボーっと外を眺めているだけ。


すると緊急警報が鳴り、女性教師が「みんな、こっちに集まって」と言い、クラスメイトを教壇の周りに集めようとしていた。


くるみは椅子に座りながら廊下の方を見ると、砂埃の中に魔獣の影が見えた。


『なんじゃ?あの影。 ライオンとヤギ? 2匹も出てきたん? あのヤギ、左の角が黒くなってる。 汚ねぇなぁ… 風呂入れよ… 胴体が一つ? なんだあの魔獣… 尻尾が… ぶった切れて無い!!』


くるみは勢いよく立ち上がり、廊下の方へ歩き出す。


「姫野さん!! 廊下に出ないで!!」と叫ぶ教師の声に耳を傾けず、ゆっくりと廊下に出た。



「センセー! どこっすか!!」


亮介は走りながら、前を走る教師に聞くと、教師は「今探してる!」と叫び返す。


亮介が「わかんねぇのかよ」と小さく呟くと、教室の方から叫び声が聞こえ、慌てて階段を駆け上ると、廊下に立つくるみの姿が視界に飛び込んだ。


「くるみ!!」


「来るんじゃねぇ!!」


くるみは前を向いたまま亮介に怒鳴りつけ、無属性の両刃アックスを装備した。


「あのバカ!!」


亮介が駆け寄ろうとすると、突然氷の壁が目に立ちふさがり、その場にいた全員が足止めを食らってしまう。


「こいつはあたしの獲物じゃボケ。 手出したらぶっ殺す」


くるみはそう言いながら、足元から徐々に装備を変え、アックスを肩に担いだ後、キマイラに向かって話しかけた。


「よお。 久しぶりだな半端野郎。 あたしを探しているのかい?」


ライオンの頭は唸り声をあげて前足で地面を掻き、ヤギの頭は歯を食いしばりながら、ギリギリと音を立てる。


「蛇の仇でも打とうってか? 面白れぇ。 魔獣にも仲間意識があるんだな」


くるみがニヤッと笑いながら言うと、ライオンの頭がそれに答えるように、耳を劈くような咆哮を上げた。



耳を劈くような咆哮の後、くるみはアックスを担いだまま、片膝をついてその場に座る。


「あいつ何して…」


亮介が呟くように言うと、くるみは柄の先端を魔獣に向けた。


くるみは「ドーン」と小声で言うと同時に、アックスの先端から大砲のように、緑色の魔法球を放ち、くるみの体は勢いで後ろに下がる。


緑色の魔法球は、ヤギの顔目掛けて一直線に勢いよく飛び出し、ヤギの両角を弾け飛ばした後、辺り一面を砂埃で覆いつくした。


女性教師は「回復魔法!? あんな使い方あるの!?」と声を上げ、ヒーラー志望の生徒は呆然とするばかり。


くるみは小声で「ジジイに感謝」と言った後、マナポーションを取り出し、ガラス瓶の先端を指で弾く。


グビっと飲み干した後、くるみはガラス瓶を壁にたたきつけ、「It's Show Time」と小声で言った後、ニヤッと笑い、アックスを肩に担いだまま足を大きく開いた。


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