第32話 case32

くるみがゆっくりと目を開けると、目の前には白衣を着た女性がバタバタと動き回り、誰かに指示を出していた。


が、何も聞こえず、シーンと静まり返るばかり


『…おかあさん? ってことは、ここって研究所? もう少し寝かせて…』


くるみはそう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。





学校では、亮介が足を引きずりながら歩き、くるみのクラスを覗き込んだ。


『くるみ、今日も休みか… 意地悪しすぎたかな? 煉瓦、マジ欲しがってたもんなぁ。 早くウォリにならねぇと…』


亮介は、そう思いながら自分の教室へ戻って行った。





ギルドルームでは、ノリがソファに座り、くるみの制服を見つめている。


するとドアが開き、セイジが姿を現した。


「姫は?」と聞くと、セイジは無言で顔を横に振る。


「…あのピンクの蝶っていったい何?」


「わからん。 りつ子さんも賢者も初めて見たって」


セイジが呟くように言うと、二人は黙り込んでしまった。


しばらくの沈黙の後、太一がギルドルームに入り、切り出してきた。


「ウィザード賢者から聞いたんだけど、姫ちゃんって魔力研究所の教授の娘なんだってね? もしかしたら、そこにいるのかも?」


「どうやって移動したって言うのよ?」


「それは… わかんないけど…」


3人は黙り込み、ノリはずっとくるみの制服を見つめていた。





くるみがゆっくりと目を開けると、そこは自宅のベッドの上だった。


『あれ? なんでここに?』


そう思いながらゆっくりと体を起こすと、激しい頭痛が起きた。


『痛…』


そう思いながら、頭に回復魔法をかけると、すぐに痛みは引いていった。


ゆっくりと立ち上がり、重い体を引きずりながら、リビングに行くと、安田さんが洗濯物を畳んでいる。


「あら、お嬢様、おはようございます。 朝食、食べられますか?」


「う、うん…」


「すぐに支度しますね。 あ、そうそう、お父様が、今日からこちらを飲むようにと置いて行かれましたよ」


安田さんから紙袋を手渡され、中を見るとカプセル剤が入っている。


「安田さん、これ何?」


「お薬ですよ」


「なんの?」


「さぁ… そこまではわかりませんが… 就寝前に一粒飲むようにとの事です」


「そっか…」


そう言いながら椅子に座り、安田さんの準備してくれた食事を食べる。


『なーんか忘れてる気がするんだよなぁ… なんだっけ?』


くるみはそう思いながら食事を取った後、シャワーを浴びた。


シャワーを浴びた後、部屋でボーっとしながら考える。


『なんだっけなぁ… なんか重要なことを忘れてるような、気がするような、しないでもないような…』


そう思いながらベッドで横になっていた。


そしてあることを思い出し、ガバっと起き上がる。


「あ!! 学校!! 忘れてた!!」


急いで支度しようとしても、制服がどこにもない。


リビングに行き「安田さん! 今日学校!! 制服ない!!」と言うと、安田さんは驚いたように声を上げた。


「ええ!? お休みじゃないんですか!? 制服は見てませんけど、どちらで脱がれました?」


「え? どこで脱いだっけ? あれ?? 無くした?」


混乱した頭のまま、制服のありかを思い出そうとしても、全く思い出せないままでいた。


しばらく考えた後、「あ、ギルドルームのロッカーかも…」と思い出し、急ぎ足で集会所に向かった。

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