エネミー料理店活動日誌
@180point
第1話 ビーフステーキ
森の国『ウードリア』
『ウード様』と呼ばれる魔力を溜めた大樹の足元にある町を中心に東西南北に1000㎞以上の森林に囲まれたこの国、その巨大な森林を闊歩する『ストーンカ』と呼ばれる青銅色をした牡牛型の怪物と3人の人間が交戦していた…。
「クロン!俺がアイツを引き付けるからその間に魔法を頼む!」
「ハイハイ、デカいの行くからしっかり引き付けてよぉ…。」
大きな剣と盾を手に持った青年にクロンと呼ばれた女性はそう言うと手に持った身の丈程の大きな杖を前に構え、瞑想を始めた。
「発射まで約2分!オジサン、それまでに足止めお願い!」
「結構ムチャ言ってくれちゃって…アンタの相棒、なかなか良い性格してるよ。」
オジサンと呼ばれた男は先程の青年に軽口を叩きながら少し後退し、腰に着けた4つのポーチに手を入れ小さな筒を取り出す。
《━━━━━━!!》
牛の怪物が大きな鳴き声を上げると地響きと共に牛の周囲に何本もの落雷が落ちる。
「のわっ!アイツ、電気まで使えるのかよ!?」
「たしか、別名『雷牛』だったからなぁ…。
…! リント!盾を構えろ!突進してくるぞ!」
「え?ぬぅおぉぉぉぉぉ!?」
間一髪、盾を構えて雷牛の突進を受け止めたリントと呼ばれた青年、その後ろで男は先程の小さな筒から黒い粒を取り出して自分の背中に背負った矢の鏃に塗り付けていた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!死…死ぬぅぅぅぅぅ!」
「アンタの装備、魔術都市の近衛騎士団も採用してる最新のモンだろ?だったらそんなヤツの突進くらい耐えるし落雷も殆ど効いてないじゃん?
そのまま耐えてくれよ、そうすれば終わる…!」
男は鏃に黒い粒を塗り付け終わった矢を短弓につがえ、雷牛に向けて放った。
《!?
━━━━━━━━━!!》
矢は雷牛の後ろ足に命中すると雷牛はバランスを崩し、膝を着いた。
「よーしよし、効いた効いた」
「すげぇ…今のは?」
「あ?コレ?そこら辺に生えてる『アシソギソウ』の花の煮汁を固めて作った麻痺毒。
でもまさかここまで強力な毒だとはな!」
「ハハッ!オッサンすげぇな…!
…おっと、そろそろか」
「魔法の準備出来たよー!巻き添えで体に穴開けたくない人は下がって!」
軽い談笑になりかけていた二人は後方で魔法の準備をしていたクロンの一言で我に帰り、雷牛から距離を取った。
「クロン必殺ぅ!『ホーリージャベリン』!」
長い瞑想による魔力の集中で白く発光した杖を天に掲げると、光が槍の形を象り雷牛へ向かって一直線に飛んで行く。
《━━━━!!!!!!!》
槍は雷牛の胴体を貫くと雷鳴とも思える咆哮を上げて雷牛は角から太い雷撃をクロンに向けて放った。
「えっ…!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!あっぶねぇ!」
迫る雷撃に呆然とするクロンの間に盾を構えたリントが割って入り、事なきを得た。
「…ふぅ、高ぇ金払って良い装備買ったかいがあったぜ。」
「ごめん…ありがとう。」
「お前…ハンターなら最後まで気を抜くなっていっつも言ってるだろ?」
「うんうん、相棒感があってよろしいよろしい
…さて、死んだよな?まぁ、心臓貫かれたら生き物は普通死ぬよな?
…一応確認するか。」
二人を見てニヤニヤと微笑んだ男は既に息絶えた雷牛へと目線を移し、腰に下げた小刀を雷牛の喉に突き立てた。
「…反応なし、おーいお二人さーん!雷牛討伐完了だぞー!」
~~~~~~~~~~~
その夜、3人は雷牛討伐クエストを終えて帰路の途中で焚き火を囲んでいた。
「改めて、ホンットごめん!下手したら私死んでたよぉ」
「もうそれは良いって言ってんだろ!」
「まぁまぁ…終わった事なんだから『次気を付ける』で良いじゃん、お互い疲れてんだからこれ以上疲労溜まるような事すんなよ…
…そうだ、アンタら腹減っただろ?手持ちのモンでテキトーだけどなんか作るから食いなよ。」
男は背に持った大きな荷物からフライパンや包丁を取り出し、その後昼に毒を取り出したモノとは別の腰ポーチからとある食材を取り出した。
それは赤く締まった『牛肉』だった。
「おぉ…サンキュー…って、肉!?
オッサン、そんな高級品持って戦ってたのかよ!?」
「今年って農場地帯の方にもエネミーが大量発生して、壊滅した牧場多いって聞いたけど…。」
この世界では魔王によって生み出された人間に害を成す存在の総称『エネミー』が人間の安全な生活だけでなく、世界中の食物連鎖の関係を破壊し海や山から原生していた成分は絶滅寸前まで追い込まれ、野菜や畜産と言った農業は24時間体制で戦士やハンターを警備に着けてエネミーを退治しないと成り立たなくなっていたのである。
警備を雇う分、当然食料の値段も上がり牛肉等は特別な日にのみ食べられるごちそうと化していた。
「良いのが手に入ったから持ってきたんだよ。
まぁ、俺一人ではあのデカめのエネミーは倒しきれなかったし、それに二人はまだ若いだろ?
普段のギルド支給の硬いパンとか森の木の実じゃロクに体も作れないだろうと思ってな。」
「オッサン…」
「オジサン…」
「あと、一応言っとくけど俺はまだ20台だし『バリー』って立派な名前があるから名前で呼んでくれ、坊っちゃん嬢ちゃん!」
「だったら俺らも『リント』と『クロン』って呼べよ!」
「ハハハ…」
バリーは談笑しながらもまな板の上の肉を1cm前後の厚さに切り、両面に塩胡椒を振りかける。
「それにしてもバリーさん、本当に良かったの?剥ぎ取った雷牛の角とか蹄とか皮とかの強力な武具に出来る素材の殆どを私たちが貰っちゃって。」
「このクエストは報酬額目立てだし、気にしなくて良いぞー。
それに、『欲しいモン』はちゃんと貰ったし。」
「あ、そうなんだ。(他に目ぼしい素材あったっけ?)」
塩胡椒を振った肉に網目状の切り込みを入れてフライパンには植物油を引き、焚き火の上で温め始めた。
「植物油なんて持ってたんだ。」
「火矢とか使う用だけどな、ちゃんと食えるヤツから取った油だから安心しな。」
油が温まったのを確認すると肉を3切れともフライパンに乗せて焼き始める。
「そう言えば、二人はかなり息合ってたけど、恋人かナンカ?」
「え…?違う違う!ハンターの訓練学校での同期なだけ!」
「連携取りやすいからチーム組んでるだけでそんな仲じゃないから!」
「ふーん…ま、どっちでも良いけどせっかく若くて力もあるチームなんだからヘタな喧嘩でチーム崩壊みたいなことするなよー。」
焼き面を確認して肉を返し、再び焚き火で焼く
「リント、そこのデカイ樹から葉っぱ一枚失敬して来てくれ。」
「葉っぱ食わせる気かよ…。」
「違う違う、取ったら軽く水洗いして乾かしておいてな。」
「ヘイヘイ…。」
肉から目を離さないバリーの指示でリント近くの樹から顔の二倍はあろうかと言うサイズの葉を採取し、水洗いする。
「…よし!
後は…。」
バリーは徐に追加したてのまだ火がついてまもない焚き火の薪を一つ掴んで焚き火の隣に移動、その上にフライパンを乗せた。
「葉っぱちょうだい。」
「お?おう…。」
焚き火よりも小さな薪の火で焼かれたフライパンの上に先程の大きな葉を乗せて蒸し焼きにする。
「あともうちょいで食えるぞ。」
ニヤニヤと二人に微笑んだバリーは背負っていた荷物から木で出来た皿とフォークを用意、フライパンを火から下ろして葉を開け、包丁で一口大にカットしてから盛り付けた。
「ホイ、ステーキお待ちどうさん。」
「おお!美味そう!」
「バリーさん、ありがとう!」
「気にすんな、俺が食いたいのが理由の半分だし。
感謝するなら食わせて貰う食材に言いなよ。」
「「「いただきます。」」」
赤身ではあるもののその身から溢れ出た脂によって艶めいた肉にフォークを刺すと強めの弾力が帰ってきて、中を覗くと断面は程よく赤が残っている。
所謂ミディアムレアの状態だ。
「美味ぇ!」
「脂もしつこくなくて食べやすいね。
ステーキなんて去年食べたかな?って位だし!」
「うんうん、流石に美味いな。筋は切ったつもりだけど、それでもちょっと筋っぽいけど。
どちらかと言うと煮込み料理向けかな?」
バリーは肉を噛み締めながらどこからか手帳と鉛筆を取り出してメモをとり始めた。
「美味しかったぁ!ごちそうさま!」
「ふぅ…ごちそうさん!
…バリーさん、それなんだ?」
「ん?君たちみたいなパートナーの居ない寂しいアラサーの趣味の料理メモ。」
「だから、そう言う関係じゃねぇって!
…え?」
バリーのメモを後ろから覗きこんだリントとクロンは絶句して顔色を真っ青に染めた。
「『オオサソリのボイル』…『バジリスクの玉子焼き』…」
「バリーさん…まさか…」
「「エネミー食って(食べて)んの!?」」
二人はバリーがエネミーを食べている事実に驚愕した。
それもその筈、エネミーは見た目こそ獣等の姿をしている生物も多いが世界を実質的に支配している魔王が人間には使えない召喚魔法を使って呼び出した『得体の知れないモノ』である。
その得体の知れないモノを食べようと考える人間は基本的に居らず、変人扱いされていた。
「良いじゃんかよ…。見た目は他の獣と変わらないし、それに皮や角は素材として採取されても肉は放置される。
有効利用だよ。」
「有効利用って…おい、まさかだけど今のステーキって…!」
「うん、さっきの雷牛の肉☆」
バリーは頬にリントの拳を受けた。
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