第6話 お出迎え
なにやら少女は俺を迎えに来たという。
その後ろで御曹司どもが騒いでいるのが見えた。
俺は少女に尋ねてみる。
「救世機関からだと? なぜ救世機関が俺を迎えに来るんだ?」
ひょっとして俺が「エデルファス・ヴォルムス」の生まれ変わりだと気付いたのだろうか。
まさかとは思うが、俺の弟子たちならあり得るかもしれない。
そう思ったのだが、少女はあっさりと言う。
「ウィル・ヴォルムス。あなたは勇者の学院に入学願書を提出なされたでしょう?」
「確かに出したが……」
正確には家臣に書類をそろえてもらって届けてもらったのだ。俺は記入しただけ。
家臣たちは、本当によくしてくれている。
俺たちの話を聞いていたらしい御曹司の十五歳児が大声でわめき始めた。
「クソガキが! なに俺の許可なく願書出してんだよ!」
「いい加減にしろ、クソガキ! そんな願書無効だ」
十二歳児もわめいている。
だが、少女は御曹司たちを気にする様子が全くない。
ここに俺と少女しか存在しないかのように話を進める。
「入学試験を実施するので、お迎えに参りました」
「……勇者の学院は入学試験を受けるだけで迎えに来てくれるのか?」
俺が前世で卒業した賢者の学院ではそのようなことはしていなかった。
やはり、俺の弟子たちが俺に気づいて手を回したのだろうか。
そういえば願書の書類セットの中には魔力を計測する
それは願書を取り寄せたらついて来たものだ。
簡易なもので魔法の巻物の中では、比較的安価なものではある。
だが、願書を出そうとする全員に配布するとは、かなり羽振りがいいと言えるだろう。
まさか、あの魔法の巻物で計測した俺の魔力で、俺の前世に気が付いたのでは?
そんなことを考えていたら、少女が言う。
「通常はしておりませんが、妨害が予想されたのでお迎えに参りました」
「……よく妨害されそうってのがわかったな」
実際に御曹司たちは俺が願書を出したことに大層お怒りなようだ。
彼女が迎えに来なければ、いろいろ面倒なことになっただろう。
ちなみに今の状況は、快くないがさほど面倒でもない。
十五歳児と十二歳児が駄々をこねているだけ。単に無視をすればいい。
「ウィル・ヴォルムス。我々をなめないでください」
「これは失礼した」
「おい! 無視するな!」
「馬鹿にしてるのか! ただじゃすまさねーぞ!」
語彙力のない御曹司たちの罵倒が響いている。ヴォルムスが馬鹿だと思われるのでやめて欲しい。
御曹司の罵倒を無視して少女は淡々と言う。
「さて、お部屋は用意してありますので、参りましょう」
「……試験はすぐに始まるのか?」
「試験自体は明日開始ですが、準備が必要ですから」
何の準備だろうか。少し気になる。
それを尋ねようとしたとき、十二歳児が叫んだ。
「勇者の学院を受験するだと? てめえみたいなやつが受けていいところじゃねーんだ!」
「俺がクソガキに身の程ってやつを教えてやるよ! 痛めつけてやる!」
激高して殴りかかって来たのは十五歳児の方だ。
「騒がしいですね」
その瞬間、目にも止まらぬ速さで少女が動いた。
俺と十五歳児の間に入って、十五歳児の全力で振るった拳を止めた。
それも左手の人差し指一本だけで止めたのだ。
巧みな魔力操作のなせる業だ。
「私に殴りかかるということは、救世機関に弓を引くという意味ですか?」
「ち、違う! 俺はただそのクソガキに教育してやろうと……」
「ウィル・ヴォルムスを、あなたが教育する必要はありません」
少女に射すくめられて、十五歳児はぺたんと床に尻をつく。
それから少女は振り返って俺を見ると、何事もなかったように言う。
「さて、ウィル・ヴォルムス。参りましょうか」
「明日、学院に向かうのではだめか?」
「…………妹さんのことが気がかりなのですか?」
何も言っていないのに、少女は俺の心中を当てて見せた。
俺が留守にしている間、サリアがいじめられたら可哀そうだ。俺の懸念はそれだ。
「では妹さんもご一緒にどうぞ。それでよろしいですね?」
「ああ、ありがとう。あと犬もいるのだが……」
「もちろん。服の中のスライムもご一緒にどうぞ」
サリアとルンルン、スライムも一緒に連れていけるなら安心だ。
それにしても、少女は俺がスライムを持っていることにも気づいていたようだ。
それからすぐに、少女はサリアを連れてくるようにヴォルムス家の家臣に指示を出す。
家臣はためらいなく即座に走り出した。
サリアとルンルンが来るのを待っている間、十二歳児が言う。
「おい、俺も受験するぞ。そのクソガキにどっちが本当のヴォルムスかわからせてやる!」
本当のヴォルムスとはいったいなんのことだ。少なくとも御曹司たちではないのは確かだ。
「ご自由にどうぞ」
興奮気味の十二歳児に、少女は感情のこもらない声で返答した。
「兄上も受験しましょう。兄上なら救世機関入りも可能ですよ!」
十二歳児は兄の実力を随分と高く評価しているようだ。
実際はどっちも大差はない。どちらも雑魚だ。
「ああ。そうだな。クソガキに身の程を教えてやる!」
十二歳児に促される形で十五歳児も受験の意思を示した。
それに対しても、少女は淡々と言う。
「ご自由にどうぞ。勇者の学院はいつでも、そして誰の願書も受け付けています」
そうして、俺は本家の御曹司たちと一緒に受験することになったのだった。
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