第62話 悪夢の話。

僕は普段、あまり夢を見ない。

しかし、子供の頃に見た悪夢はいまだに憶えている。


当時、僕は幼稚園に上がるか上がらないかで、東陽町のマンションに住んでいた。

このマンションが夢の舞台なんだけど、色々とおかしいのが、まず、僕の家は9階だったのに、夢では窓の外が地続きだった事。

昭和の初期の夏の様な雰囲気で、時折、かき氷屋さんの自転車や風鈴屋さんの屋台が通り掛かる木の塀で囲われた路地とベランダが繋がっている。


僕はまず、電気のついていない、薄暗い部屋にいる。

間取りは完全に僕が当時住んでいたマンションのあの間取りなのだが、廃墟となっており、壁紙は所々剥がれ、剥き出しのコンクリートがヒビ入っていたり、かびが生えていたりする。

全体的に冷んやりとした湿った空気が漂っている。

そして、父の部屋に近付いて行くと、ドアは無く、部屋の奥に洋画に出てくるようなバスタブが一つ、置いてあるのが見える。

僕が吸い寄せられるようにそのバスタブを覗き込むと、ヘドロのようなものがプカプカと浮くばかりで、水中の様子は全くわからない。

しばらく眺めていると、そのヘドロを掻き分けて、腐敗したサメのような、エイのような不気味な魚が姿を現し、再びヘドロの中に沈んでいく。


ただそれだけの夢なんだけど、昭和初期のような雰囲気や、廃墟と化した我が家、そしてヘドロのバスタブと不気味な魚というビジュアルイメージは、一体何処からやってきたものなのだろうか?

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