第156話 歴史の本質
烏丸線に十分ほど乗り、まずは京都御所に立ち寄る。
ここは平安時代から明治時代まで、日本の都が京都だったときに天皇がお住まいになられていた場所らしく、なんとその期間は千年以上にもなるんだとか。
さらに、京都の三大祭りのうち、葵祭と時代祭の出発地にもなっているということで、この京都御所は日本の中心として長く機能していた場所らしい。
歴代の天皇のお住まいであったり、儀式や執務が行われていた御殿の数々を回り、健礼門を南に下ると、紅葉した木々の中に圧倒的な存在感を放つ一本のイチョウの木が俺たちの目の前に現れた。
「うへぇ……これはデカい……」
普通に「木が立っていた」というよりも「そびえ立っていた」という方がしっくりくるかもしれない。
小高い丘の上にあるから、周りの木々よりも大きく見えるのかもしれないが、それ抜きに見てもぱっと見て倍くらいの高さはありそうだ。
結衣と佳奈さんは「大きい~!」と声を上げながら子犬のようにその巨木のもとに駆けて行く。
「伊織~、見て見て~! こんなにおっきいよ!」
根元に着いた結衣が大きく伸びをしながら、この木の大きさを身体全身でアピールしている。
そこに並んでいると、結衣が小人になっているかのように錯覚してしまうほどだ。それくらい大きい。結衣二十人分くらいの大きさはありそうだ。
「――結衣、これでも喰らえっ!」
佳奈さんは、根元に落ちて黄色のカーペットと化している落葉を拾い上げると、それを結衣さんに投げつける。
「うわぁっ! 佳奈……⁉ やったな~、この~!」
結衣は一瞬びっくりしたか表情を浮かべていたが、すぐにそれに応戦するかのように佳奈さんに黄色いイチョウの葉っぱを投げ返す。
「これでもう後戻りはできないよ、結衣!」
「佳奈こそ! 望むところだよっ!」
佳奈さんはさっきよりもたくさんの葉っぱを、ハンマー投げの要領で結衣の頭上からばらまいていく。
二人とも童心に返ったように葉っぱを宙に舞い上がらせる。
そんな二人の攻防戦を見ているだけで心が洗われていくように感じる。あぁ、なんと平和なこと。
俺はその光景をしっかりとカメラに収めていく。
しばらくしてお互いに体力をかなり使ったのか、葉っぱ投げの乱が一段落したところで、再び御所内を歩き始める。
そして一通り回り終えると、次の目的地、二条城へと足を向ける。ちなみに、正式名称は「元離宮二条城」というらしい。
京都御所から二条城までは思ったよりも近いところにあるらしく、碁盤の目状に整備された道をただひたすらに直進すること十五分。
大通りと大通りがぶつかる十字路を左に曲がると、だだっ広い敷地を囲むかのように長く連なる建物がお出迎えしてくれた。
「ついに来たぞ、二条城!」
俺のテンションは少しずつ上がって行く。
「そんなに楽しみだったの……?」
結衣が不思議そうに尋ねてくる。
「うん! ここは来たいと思っていたところなんだよ!」
ここは清水寺や東大寺と言った観光地みたく何か圧巻の景色が見えるとか、大きな大仏があるとかではない。
だが、俺がどうしても行きたいと三人にお願いしてきた場所だ。
だってそうだろう。
この二条城、250年以上も続いた江戸幕府に幕を下ろすことになった、大政奉還が行われた場所なんだぞ。文系日本史選択が京都に来てここに来ないわけにはいかない。
歴史の転換点を五感全てで感じるのだ!
両手を広げて大の字になって大きく息を吸う。
歴史が動いたその瞬間に立ち会っているわけではないが、それでも、偉人たちが踏んできた地面をこうして俺自身も踏めているというのは何とも不思議なものだ。
敷地の外はコンクリートで固められた地面、ガソリンで走る鋼鉄の塊などなど。時代は想像が出来ないくらいに発達しているのに、敷地内は当時のままから時間が進んでいないようにすら感じる。
歴史的建造物を観光で訪れる人々は、そういった「時間的なギャップ」を無意識的に求めているのかもしれない。
そうでなきゃ、エビみたいに後ろに進むのではなく、前に進む人間がそうすることを説明することなんてできないだろう。
「――ほら、結衣もやってみなよ。こうすれば歴史を肌で感じられるからさ!」
「わ、わたしも……?」
「そうだよ!」
「え、えっと……わたしはだいじょぶかな……あ、あはは」
あれ、もしかして結衣さんドン引きしちゃいました……?
俺のやってることが謎すぎて理解できなかったのかもしれない。
うわ、何それ、自分だけ盛り上がって周りとの温度差を感じてないとか、一番恥ずかしいやつだわ。マジですんませんでした反省します……。
「みんな、無理言って合わせてもらってごめんね……」
「いやいや、そんなことないぞ伊織。二条城ってなんかこう……いいところだな!」
「そんなことないよ! テレビとかで見る景色を実際に見れるのってすごいと思うし、楽しかったよ!」
「たしかに~。テレビだけでは伝わらない迫力っていうのかな……それがわかった気がするよ!」
何がどういいのかがよくわからないけど、楽しそうな達也。
歴史的建造物の実物を見てはしゃいでいる結衣。
意外な発見をしたような表情の佳奈さん。
最初は三日目の行程に含まれていなかったこの二条城ではあるが、来てみたら来てみたで見どころはたくさんある。
結衣や達也、それに佳奈さんも不満を漏らすどころか、あちこりにカメラを向けていたりしていたから、俺は一安心だった。
「さて、次は皆さんお待ちかね、金閣寺へとレッツラゴーといきますか――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます