第33話 親友はいつまでも
わたしと佳奈が出会ってから、今年ではや四年。
今でも、佳奈は見た目はちょっと怖いっていうか、一歩引いてしまうと思うところが、時々ある。
だけど、笑ったり、一緒に話ししているときとかの表情は、普通の女の子のそれと何ら変わらない。
活発で、包み隠さず、思ったことは何でも言う――それが良いことだろうと、悪いことだろうと。
そして、一度決めたことは決して曲げることはしない、芯の強い女の子。
一方のわたしは、気弱で、消極的。思っていることがあっても、黙って他人の意見に賛同するだけで、自分というものをもっていない、薄っぺらい女の子。
そんなまるで正反対の存在が、こうして友達としてこんなにも長く一緒にいることは、いまさらながら不思議に思う。
――もしもあの時、佳奈があのとき隣にいなかったら。
――あまりの衝撃に、佳奈の誘いを断っていたら。
佳奈と友達になることはなかったし、今のわたしにもなることはできなかったと思う。
この出会いが、わたしを成長させてくれた。
さすがに佳奈レベルにはなれなかったけど、クラスでもたくさんの人に声をかけてもらえるようになった。そのおかげで、友達もたくさんできた。
二年生になって佳奈とクラスが別々になったのはショックだったけど、佳奈がいなくても、すぐに新しいクラスに馴染むことができた。
一年前のわたしからしたら、まったく考えられないことだ。
わたしはこの出会いに感謝したい。
そして、これからも佳奈と――
「……………い。……い。…ゆい。ちょっと結衣、聞こえてる?」
「――っ!」
わたしは佳奈の呼ぶ声で我に返った。
「どうしたのよ……。いきなり黙り込んじゃってさ」
「あはは……。ごめんごめん。ちょっと昔のこと思い出しててさ……」
「ふぅ~ん。まあ、別にいいけどさ……と・に・か・く! 早く聞かせてよ、高岡くんのこと!」
佳奈はあの頃からまったく変わってない。
だから、今回だって、わたしから根掘り葉掘り聞くまでは解放してくれないだろう。
出会った最初の頃、今と同じようにぐいぐい来る佳奈に、わたしはおっかなびっくりしていていた。そして、佳奈の言動のひとつひとつに振り回されていた。
でも、四年ちかくも一緒にいたから、佳奈の性格というものをずいぶんとわかるようになった……と思う。
今となっては、ぐいぐい来られるのは別に嫌じゃない。むしろ、佳奈らしくて好きって思えるようになった。
こんな関係がいつまでも続いて欲しい。
ずっと仲良くしていきたいって思ってる。
だから――
「も~、わかったよ。まったく、佳奈はわがままなんだから~」
「はい、待ってました~!」
佳奈はもう中身を飲み干してしまったのか、氷だけが残ったグラスをカラカラと鳴らしている。
そんな佳奈を見て、わたしはふと笑みがこぼれる。
「ええと、まずは――」
今日のことを、ひとつひとつ噛みしめるように話し始める。
保健室での出来事は佳奈にも言っていなかったから、まずはその話から始めて――そして今日のことまで。
「――っとまあ、こんなところかな……」
「うっひゃぁ~。甘々のあまちゃんだねこりゃあ……。聞いてるこっちまで溶けちゃいそうだよまったく……」
「そんな大げさな……」
保健室の日のことから今日までのことは一通り話したけど、わたしが伝えたいと、そう心に決めていたことはまだ残っている。
「――佳奈」
「ん?」
「その……ありがとね」
「えっ、何が?」
佳奈はわたしの言葉がよくわかっていないようで、きょとんとしている。
それでも構わずわたしは続ける。
「中一のときね、もし佳奈が話しかけてくれなかったら、きっと佳奈と仲良くなることだってなかったと思うの。それに、佳奈がいなかったら、わたしきっと気弱なままで……きっと高岡くんに告白するまでの勇気を持つことができなかったと思うの。だから……今のわたしがいるのも佳奈のおかげ。全部……佳奈の、おかげなの」
わたしはいつか佳奈に伝えようと思っていた、この気持ち。
「ゆ、結衣……。私、そんな特別なことなんてしてないよ……」
佳奈はさっきまでの勢いはどこかに置いてきたかのように、じっとわたしを見つめる。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見えた。
「――それは違うよ、佳奈」
「佳奈は普通に接してくれて、それは佳奈にとってはそうかもしれないけど、わたしはそうじゃないと思うの」
「そ、それってどういう……」
「わたしは出会ってからずっと、佳奈の言動の一つ一つに救われてきて、いろんなことを教えてもらったんだよ」
そのおかげで、わたしは閉じこもっていた殻を破り、殻の外側の世界をこうして少しずつ知ることができている。
佳奈には、感謝したいことがたくさんある。
たくさんありすぎて、一言でまとめることなんてできるなんて思えないけど。
それでも、伝えたくて。
だからわたしは、とびっきりの笑顔でこう言った。
「だからさ、佳奈……これからもわたしと一緒にいてね!」
「――っ⁉」
佳奈の瞳から一筋の涙が頬を伝った。そしてテーブルにポトポトと滴り落ちる。
「あ、あれ……。何でだろう、悲しくなんて……悲しくなんてないのに…………」
佳奈は少しの間驚いている様子だった。
でも、やっぱり佳奈は佳奈だった。
すぐにゴシゴシと目をこすり、少し赤くなった顔なんて気にする素振りも見せずにこちらに向けると、
「うん! もちろんだよ!」
いつものニカっとした笑顔でそう答えた。
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