610 light-years Love
河童
クオリア
89年と数か月――思い返せば、間抜けな人生だった。
そうだな……例えば、嫁にプロポーズした時もそうだった。「一生幸せにします!」とか言って、指輪を渡そうとしたらポケットになくて――、家に忘れてたんだっけな? よく覚えてないが、嫁はそんな間抜けなプロポーズを聞き入れてくれた。数日前に逝ったと聞いたが、それを追うように俺の容態も悪くなってしまった。やっぱり、あの人なしでは俺は生きていけないのだろう。
それから……今もずっと立ちっぱなしで見守ってくれている一人息子にも迷惑をかけた。大学受験の日、預かっていた受験票が入った袋を列車に置き忘れて――、リクはどうやら試験開始の時間には間に合ったらしいが、俺のせいで不合格になるところだった。学のない俺と違って勉強熱心なリクには老後も面倒を見てもらったな。全く情けないものだ。
俺は俺自身の人生に満足しているだろうか?
目立ったことはなくても、悪くはなかったように思う。学生時代はサッカーに打ち込んで、恋愛もして、そのうち就職して、結婚して、子供ができて……何事もなく普通に生活することができた。昔何だったか本で読んだことがある――俺たちの日常は実は奇跡の連続なのかもしれない、だったかな。もしかするとそういうものなのかもしれない。こういう普通の日常を過ごして、死ぬ瞬間を家族が見守ってくれるということだけでも、それはとても有り難いことなのかもしれない。
ああ、これを満足というのだろうか。
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