第14話 黒瀬麻子は闇属性

 翌日。

 わたしはベッドの上で目を覚ました。

 いつの間にか寝てしまっていたらしい。

 またしても、メイルたんの配信を見逃してしまった。自己嫌悪。

 身体を起こそうとするが、動かなかった。身体がだるい。それに眠い。

 浪人生活を始めてから、碌に人と会話もせずに暮らしてきたのに……この二日間は、謎の生物に加え中学生女子と突拍子もない会話をしている。

 心身ともに疲れ果てるのも当然だ。


「モアがいない今日こそは……勉強しようと思うけど……身体がそれを拒んでいる……うぅ」


 何度かベッドの上でもぞもぞと寝返りを打ってから、ようやく覚悟を決めてゆっくり起き上がる。

 相変わらずやる気はでないけど、頑張ろう。

 そう思い、ベッドから降りようとすると。


「おはようだぽん、麻子」

「………………おはよ」


 いた。モアが机の上で優雅にコーラを飲んでいた。


「……なにしてるの」

「なにをしてるのとはおふざけを。昨日の話の続きをしに来たに決まっているぽん」


 語尾が元に戻っていた。どうやら、冷静になって本来のキャラを取り戻したらしい。

 いや、それよりもだ。


「……そのコーラ、どうしたの?」

「ああ、冷蔵庫に入っていたのをいただいたぽん。ありがとうだぽん」


 わたしは片手でモアを掴むと、窓を開けて外に放り投げた。

 完。



「はあはあ……酷い目に遭ったぽん」

「こっちの台詞なんだけど。あんたは飛べるんだから痛くも痒くもないでしょ」


 モアは懲りずに普通に壁をすり抜けてわたしの部屋に入ってきた。


「それはそうなんだけど。さすがに心が傷つくぽん?」

「そうだね、メロンパンに続きコーラも奪われたわたしの心がね」


 再度モアを掴もうとするわたしをひらりと躱すモア。


「落ち着くぽん。今日は建設的な話をしに来たんだぽん」

「反省していないことがよくわかる反応だね」

「麻子には、闇の魔法少女として暗躍してもらうぽん」


 人の話を全く聞いていない。

 というか、何?


「……はあ? なんて?」

「闇の魔法少女……これはいけるぽん」


 モアの話をまとめるとこうだ。

 唯一の闇属性(笑)魔法少女のわたしが魔王軍『ネグロ』に潜入する。

 魔王が復活する前にネグロの全貌を掴み、モアやほかの魔法少女に情報を流す。

 そして、魔王『キューリッヒ・ジュナスロー』が復活する前にネグロを殲滅する……


「なるほどなるほど」

「すばらしい作戦だぽん」

「絶対いや」

「ええ!?」

「いやなにその意外そうな反応。当然、いや」


 当たり前である。

 スパイしろってことでしょ?

 しかもそれを、ひとりで。

 承諾するほうがどうかしている。


「いやいやいや……これは麻子、キミにしかできないミッションだぽん! キミがやらないと、魔王軍には勝てない。やるしかないんだぽん!」

「ふーん。モア昨日、闇の魔法少女なんてありえないって言ってたじゃん?」

「え?」

「てことはそんな作戦最近まで考えていなかったってことだよね?」

「…………」

「じゃ、スパイなんてしなくてもなんとかなるでしょ?」

「……えーっと……」

「絶対にやらないから」

「……はああああああああああ」


 深いため息をつくモア。

 いらっ。


「こんな非協力的な魔法少女は初めてだぽん。やれやれ」

「いやいやいや! ひとりで敵陣に乗り込んでスパイしろって鬼畜すぎるでしょ」


 そんなことを平気で指示するモアがおかしいと思う。

 なんでわたしが異端みたいな言い方されてるんだ。


「はあ……んじゃキミも芽衣と一緒にネグロの魔獣を倒していってくれぽん」


 テキトー! テキトーすぎ!


「急に投げやりじゃん! 昨日はあんな深刻そうな顔してたのに」

「それしかできないから仕方がないんだぽん。まあ、魔獣を倒していれば魔王復活はないだろうし……」


 なんだか歯切れが悪いモア。


「なに? なんか気になることがあるの?」

「まあ……気になることと言えば……」


 モアは私の頭に乗ると悩ましい声で言った。


「闇の魔法少女と闇の魔王が対立したとして、攻撃しあうと……どうなるか、想像もつかないぽん」


 モアはちょっと不安そうだ。

 ……そうかな? わたしは闇同士がぶつかったらどうなるか、想像つくけどな。

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