能力者《サイキッカー》の葛藤《コンフリクト》

四季島 佐倉

第1話 夢見ることができれば、それは実現できる。

 西暦2127年。

 前奏曲プレリュードもなく、人の世に現れた厄災。

 それは一種のウイルスと仮定される謎の多い存在であるが、感染力も弱く、致死率も低かった為に注目されず、研究もほとんど進められてこなかった。存在を知っていた人間ですら脆弱なものだと高をくくっていた。


 だが発見されてから数年後、ある日本の科学者がそれの恐ろしさを解明した。

 感染者が奇天烈な力に目覚めるというものであった。

 この事実に他の科学者たちは舌を巻いた。

 ある者は「神の与えた力」と云い、またある者は「呪いの力」と評した。

 その病原体の起源などについても研究と討論が重ねられ、宇宙から飛来したなどの「外部侵入説」と、地球の地下深くから出現したなどの「内部発生説」が打ち立てられた。

 科学者たちが夢中になっている間、徐々に世界中に感染者が出てきて、課題の一つとなりつつあった。

 差別問題を考慮し、個人情報保護の法律によって能力者であるかも保護の対象となっている。それもあってか、メディアによって大々的に報道されることはなかった。

 

 無知な国民を他所に政府は能力者の対応に負われていた。

 何しろ能力者の持つ力は強大で、一部では「歩く爆弾」という差別用語が往来しているぐらいである。

 故に能力者となってしまった者はそんな自分の運命を恨んだり、嘆いたりする。

 無理もない。秘密がばれた瞬間終焉がやってくるようなものだ。そう落ち着いていられるわけがない。

 だがこの時、更に事態が悪化することを人々は視野に入れていなかった。

 とある病原体の姿が確認されてから十数年、表向きには今までと変わらない平穏な日常が流れていたが、裏社会では様々な暗躍が行われたり、能力者を狩る行為「魔女狩り」が行われたりと世界は着実に崩壊に近づいているように見えた。

 一応、能力者の人権や身柄を保護する団体も設立されたが十分とは言えなかった。

 「不思議な力が使えたら面白いだろう」という戯言は現実になり、空想ファンタジーは手のひらを反すようにフィジカルに牙を剥いた。 

 願望は煩悩に成り果てた。

 惨劇の序章。所謂「終わりの始まり」である。

 

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