類友はカルマに従う 番外編1
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類友はカルマに従う 番外編1-①
五月も下旬になり、フランスでの生活も一ヶ月が過ぎた。エクトルとの生活も少しずつだが慣れつつある。恋人としての甘い言葉には未だに戸惑いがあるが、エクトルの愛情に何とか応えようと羽琉はいつも四苦八苦だ。だがそんな慌てる羽琉を愛おしそうに見つめるエクトルの表情は、羽琉も好きだった。
「目が疲れた……」
パソコンや辞書を見つつ、悪戦苦闘しながらフランス語を覚える毎日。イヤホンでフランス語の会話を聞きながら耳で拾った単語を調べる。発音はヒアリングで覚え、単語の意味を辞書やネットで調べるといったことの繰り返しだった。
それでも月の光で日課となっていたスケッチはフランスの地でも続いていた。日本とは違い、見るもの全てが新鮮でキラキラとしていて、描きたい衝動が次から次へと溢れてくる。しかしのめり込むと時間を忘れてしまう羽琉は、時間を超過し過ぎないよう、エクトルからもらった慣れないスマホでアラーム設定をしていた。
フランス語勉強の気分転換という名目で二時間。
羽琉は自分でそう決め、今日もエクトル宅近く、歩いて二分ほどの公園に来ていた。
月の光の目の前にあった公園より面積は小さいが、緑溢れる綺麗な公園だ。子供が遊びに来るようなアスレティックがあるわけではなく、ただ芝生と噴水付きの池があるだけ。その池の中央に雄々しいライオンの彫刻が飾られている。リヨンの市章もライオンだ。そこからきているのだろうか?
そんなことを考えていたら、ポケットに入れていたスマホが震えた。
「!」
アラーム時間にはまだ早い。
鉛筆を置いてすぐに画面を確認すると、着信相手はフランクだった。
エクトルからスマホをもらった時、エクトルの番号はもちろん、フランクと友莉の番号はすでに登録してあった。そのことに感謝しながら、羽琉は慣れないスマホを操作して「は、はい」と電話に出る。
【すみません。フランクです。今からエクトルを連れて帰ります】
まだ昼前なのに今朝出勤したエクトルを連れて帰ると言うフランクに、羽琉は小首を傾げた。
「え、どうし……」
【取り敢えず家にいて下さい】
「え、あ、はい」
有無を言わさない響きを感じ、羽琉は反射的に返事を返していた。
訳が分からなかったが、フランクからの通話が切れたため、羽琉は鉛筆をペンケースにしまうと言われた通りすぐさま家に帰った。
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