和平交渉
王宮には魔人の中でも近衛兵と呼ばれる者が配置されている。
都の魔人のレベルはかなり高かったが、近衛兵のレベルは尋常ではなかった。
強さとしては、城の中層の魔人10匹分くらいと言えばいいだろうか。
そのレベルの魔人が近衛兵として、王宮には50匹程度配置されていた。
どうやら亜人は王宮へは入れないようで、ハヌルを含めた亜人は王宮の外で様子を窺っていた。
近衛兵の中でもとりわけレベルの高そうな者が出てくる。
アデラを見ると、目くばせして他の2人と別室へ連れて行かせる。
ナギとカースは王宮の地下へ連れていかれる。
ナギとカースは手を縛られてもいない。魔人、それも近衛兵からすれば人間が何をしても恐れることはないということだろう。それが城を消滅させた人間であっても。
前後を2匹の近衛兵に挟まれてナギとカースは地下3階まで連れていかれる。
地下3階の部屋に通されると、そこには、魔人としては小柄な者がいた。
「ワンサウザントマスター・ナギと魔剣士カースか」低い声でそう言葉を発した。
「言葉が分かるのか?」ナギが聞き返す。
「言葉くらい話せるぞ、造作もないことだ」
「魔人、魔王ラファールは何を考えている?さっさと俺たちを殺せばいいだろう?」
「ワンサウザントマスターよ、早まるな、お主たちにとっては悪くない話をしようというのだ」
「どういうことだ?」
「ある条件を受け入れれば、北部地方を人の自治領として割譲する」
衝撃的な内容だった。この数百年人類が望んだとしても得られるはずもない、和平、それが魔人側から提示されたのだ、ただし、条件付きではあるが。
「その条件とやらを教えてもらおうか」
「お主たちの文化に則ってここに文書にしてある」魔人が差し出してきた。
1 アデラを魔王へ差し出す事
2 都と魔人居住区には奴隷と食肉用の人間以外は立ち入らない事
3 人の人口が3,000人を超える町を作るには魔王の許可を得ること。
4 人の監視のために、亜人を代官として派遣するから、その者の指示に従うこと。
以上であった。
「条件4については困難だが」ナギが交渉を始めた。
「だが、代官がいなければ把握できない」
「リストを提出する」
「そのリストが正しいと判断する材料は?」
「そこは考えさせてもらいたい」
「期限は2日だ、それまでに返事がなければ人間側が拒絶したとみなす」
「分かった」ナギはそう答えた。
ナギとカースは鍵もかかっていない部屋に軟禁されている。
「ナギ、あの条件を受け入れるのか?」
「カースには受け入れられないだろうな」
「当たり前だ、自分の妻と人類の居場所どっちかを選べだなんて」
「ただな、俺たちが魔王に勝つことは、確率的にはかなり低い、さらに、魔王に勝ったとしても他の魔人が魔王になるだけだ」
「たしかに、そうだけど・・・」
「ただな、ここで和平がなったとして魔人がそれを守るかは分からない、魔人からすれば守らなくてもペナルティはないのだからな」
「うん、魔王のきまぐれで和平が反故にされることもありうる」
「ただな、城のボス、クシャルと言ったか、彼を見ても、どうもな数百年生きている魔人は、もう、人を殺すことに倦んでいるように思えてな」
「ナギは人類の歴史に残るほどの知者だし、唯一のワンサウザントマスターだよ、だから、ナギの考えに逆らうようなことは言いづらいけど、でも、さ、俺たちここで、魔王に嫁ぐのを嫌がって、恵まれた環境を全部捨てて逃げてきた女の子を助けられないでさ、この後誰かを守ることなんてできる?」
「カース・・・」
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