魔人
修行から半年が経った頃、魔人が町の近くに現れたとの報告があった。
自警団が確認に行くと、1匹の魔人がそこにはいた。
全身が毛で覆われていて、身長は2メートル程度。鋭い牙と尖った爪が特徴的だ。その手には、まだ、6歳くらいの男の子の死体を無造作に持ち歩いていた。
自警団の数は10名。剣と弓で武装している。
弓が3名、剣が6名、リーダーも剣士だが、指揮に徹する。
まずは、矢を射かける。
魔人は自警団の動きをぼうっと見ていたが、攻撃してくると分かると動きが速かった。
矢は、魔人の動きについていけずに、的外れなところを飛んでいく。
正面、右翼、左翼と剣士が展開して行く。
魔人は、正面の剣士に突っ込んでくる。
正面からぶつかったと思った時には正面の剣士は魔人の爪で心臓をえぐり取られていた。
右翼と左翼の剣士はその隙をついて剣を振り下ろす。
しかし、亡骸となった正面の剣士を右翼の剣士にぶつけ、そのまま左翼の剣士の喉を爪で切り裂く。大量の血しぶきとともにその剣士は倒れた。2人目の犠牲者だ。
この間に、弓隊は二撃目を撃つ。
一本の矢が魔人の左肩に刺さる。
少し魔人が揺らいだ隙に生き残っている剣士3名が突撃する。
正面の剣士は、またしても心臓を貫かれ、即死する。
右翼から突撃した剣士の剣が魔人の脇腹を捉える。手ごたえがある。しかし、硬い筋肉に阻まれ致命傷にはならない。剣が止まったところで右翼の剣士は顔を潰され絶命した。
「全員撤退だ、ここは俺が食い止める」リーダーの号令がかかり、兵士たちは町へ逃げかえる。
リーダーは剣を正面に構える。魔人もリーダーと正対する。
次の瞬間、リーダーが間合いを詰めて上段に突きを繰り出すが、その剣を固い腕でいなされ、宙を突く恰好になる。
リーダーのバランスが崩れたところで、魔人はリーダーの頭を掴む。そのまま上に持ち上げる。
苦しくて、手足をバタバタさせるが、魔人の力の前にはどうしようもない。
そのまま、首の骨を折られるかと思ったところで魔人の動きが止まった。
リーダーは放り出される。
何があったのかと周りを見ると、亜人の姫とカースがそこにはいた。
魔人はアデラに向かって跪き、首を垂れる。
シロが魔人の近くに行き、なにやら通訳をしている。
どうやらアデラを迎えに来たようだ。
アデラが断ると、それまで深く下げていた頭を起こし、アデラに掴みかかろうとする。
その間にカースが入り込む。
魔人はカースの顔面目がけて右手を振り下ろす。
しかし、最小限の動きでその右手をかわす。
「アデラ様、やっちゃっていいかな?」
「ああ、修行の成果見せて見ろ」
カースが剣を抜く。
魔人も今度は本気になっているのが分かる。
動いたのは双方同時だった。
魔人の爪がカースの心臓目がけて繰り出される。
その爪目がけて、カースの剣が走る。
キンっという金属音がして剣と爪が弾かれる。
魔人は雄叫びを上げる。
あまりの大音量にカースの顔が歪む。
おそらくは、魔人の魔法、攻撃力増加系なのだろう、魔人の体が赤く光っている。
すぐに、魔人が攻撃してくる、明らかに今までよりスピードと威力が増している。
カースはなんとかかわしているが、服があちこち裂け、血がにじみ出る。
魔人が、少し距離を取って助走をつけてカースに迫る。
カースは逃げるのはやめた、死が頭をよぎる。ラーナのことは心配だった。
しかし、それも一舜。
魔人の爪がカースに届くぎりぎりのところでカースの剣が、まず魔人の腕を切り離し、返す剣で、魔人の首を刎ねた。
魔人の残った巨体は力なく、その場に倒れ込む。
魔人を斬った剣は魔人の力を吸ったように、鈍く光り輝く。
「よくやったな、カース」アデラが褒めてくれた。
周りを見ると、町の人たちが集まってきていて、口々にカースを絶賛する。
それまで、アデラとの関わりで陰口を言っていた人々も態度を豹変させた。
魔人を倒すのにはそれまでは最低でも10人の兵士が必要だった。それでも、勝率は1割から2割。もちろんワンサウザントマスターは完全に別格だが。
気の早い町の人は、カースのことを英雄とか魔剣士とか言い始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます