野盗

 アデラは風を切り裂いて北へ北へと飛ぶ。


 20日飛んだところで、森を見つけてそこに降りてみた。


 北の森は凍えるような寒さだ。アデルは人に比べれば寒さには強いがそれでも少し寒く感じる。


 枯れ枝を集めて火を起こす。


 たき火の炎が暖かい。


 アデルがたき火に当たっていると、リスやうさぎが近寄ってきた。


 なぜか野生動物には気に入られる。


 アデルは特に気にする様子もなく、周りにある木からもぎ取った果実を食べる。


 近くにいるリスに分けてやると喜んで食べているようだ。


 「アデラ様、都に帰りませんか?」


 アデラは無視して、果物をかじる。


 シロは諦めたように、肩を落とす。


 

 アデラが森に滞在して1週間。初めて奴隷以外の人と出会った。


 数は30人。


 魔人から逃げて夜盗になった集団だ。


 アデラを見つけると、手下はリーダーに報告した。


 こんな森に十代と見られる女がいるとはおかしかった、魔人かもしれないということになった。


 ただ、すごい美人だと言われ、リーダーが見に行くと、遠目から見ても絶世の美少女だった。


 

 深夜、アデラが寝入った頃を見計らって30人の野党は包囲網を狭めてくる。


 完全に寝ていると見て、2人が一気に飛び掛かる。


 が、


 アデラが寝ている間はシロが氷魔法の結界を張っている。


 2人の夜盗は氷の結界によって、自ら飛び込んだ勢いの倍の勢いで飛ばされる。手足が明後日の方向を向いてしまっていた。


 それを見た他の夜盗は、慎重に距離を縮めていく。


 そのうちに、アデラの目が覚める。


 「誰か?」緊張感すら感じさせない声。10代の女性特有のあどけなさも持ち合わせている。


 アデラの周囲を囲む夜盗に畏れと羨望の色がにじみ出る。


 「お嬢さん、おとなしく捕まってくれないかな」そうリーダーが口に出す。


 「そうはいかないな、私は貴様らみたいな下等生物のなぐさみものになるつもりはないのでな」


 「じゃあ、少し手荒な手段を、おい、やれ」


 合図とともに、刀を抜き放ち、5人の夜盗が一斉に襲い掛かる。


 アデラは避ける様子も見せなかったが、5人の太刀筋を見極め、かるくいなしていく。


 「くそ、なめやがって」


 そう言って1人が横に薙ぎ払う。


 その刀をアデラが片手で掴む。


 刀が動かなくなる。


 しかし、アデラも動けなくなった隙をついて後ろから1人が斬りかかる。


 そこに向けて、今握っていた刀を合わせる。


 キンっと音がして刀は弾き返される。


 「もう、めんどうくさいな、まとめてやっちゃうか」


 アデラが魔術を発動しようとした時、後ろの方から声がした。


 「中央集落の者だ、そこでやめなさい」


 男たちの反応が止まる。


 この森は中央集落の勢力範囲ぎりぎりのところだった。


 リーダーから撤退命令が下る。


 夜盗たちは、怪我をした仲間を連れて引き下がった。

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