ナギ

 魔人の都から北へ、北へ遥か遠くに中央集落と呼ばれる人の町があった。


 人口は5,000人。


 奴隷でも食用でもない人の集落としては最大のものだ。


 軍隊もあり、10歳になった男子は全て兵隊として訓練される。


 魔人たちはこの町の存在は知っているようだが、あえて攻めてくることもなかった。


 町の人間は、寒い土地にあるから魔人が来ないとか、規模がこの程度だから魔人たちが見逃してくれているとか色々なことを噂していた。


 中央集落の町長はガンツと言った、55歳であり、奴隷出身だった、中央集落がまだ1,000人くらいの規模の村だった頃から住んでおり、町の発展に尽力した。


 ガンツは魔人と交渉できないかと考えていた。和平である。しかし、それには圧倒的に戦力不足であった。


 最終戦争の時の人間側の戦力は30万人あったとされる。それでも負けた、惨敗だった。


 今、この集落には兵力は3,000人しかいない。交渉や和平が成り立つ土台が全くない。


 ただ、唯一希望があるとすれば。


 「おう、ガンツ、いつも渋い顔をしているな」


 「ナギか」


 ナギ、中央集落の、いや人類の希望と言ってもいいかもしれない。29歳の男は明らかに常人とは違うオーラを身にまとっていた。


 千の魔法を習得したと言われている。異名を「ワンサウザンドマスター」


 彼は一人で魔人を100匹以上倒したとされる。


 「魔人の都に放っているスパイから連絡があった、姫が逃げ出したそうだ」


 「姫?」


 「どうやらアデルというらしい、魔王に嫁に行くのが嫌で逃げたと都では評判らしい」


 「お家騒動か」


 「魔王から逃げたとあっては、逃げ込むのもここくらいしかないだろう、なにやら美人らしいが」


 「それは、困るな、匿ったと知れたら、それこそ全面戦争になるぞ」


 「いいじゃないか、全面戦争、俺は望むところだ」


 「馬鹿を言うな、ナギ、戦える戦力など、どこにもない、それに、お前には万が一などあってはならん」


 「しかし、お姫さんは相当な魔法使いというじゃないか、魔王の娘ってことは魔力も相当なものだろう」


 「それこそスパイかもしれんぞ?」


 「スパイ?それこそ笑えるぞ、ガンツ、この町を攻めるなら魔人が10人でも集まればいい、わざわざそんなまどろっこしいことをしようとは思わないだろう」


 「魔人が10人集まったところで、ワンサウザントマスターは倒せないだろう」


 「それは、光栄だが、まあどっちにしてもあいつらは、やるときは正面から来る」


 「なるほど、だが、姫とやらはどんな考えをもっているのかな?」


 「さて、どうかな、もし、町に脅威となるのなら、俺が殺す」


 「ああ、その時は頼むかもしれん」


 「さて、どうなるかな」

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