居候の訳アリ女子高生アイドルに三日で恋をして、相思相愛になった件。【三月の雪】

月平遥灯

芽吹く春・ミツキの告白

プロローグ 君は僕の腕の中で震えていた

「……シュン君」


 ミツキは振り返って僕の首の後ろに手を回した。そのまま。しばらくそのまま、ミツキと僕は抱き合っていた。震えるミツキの身体をそっと抱きしめる。顔を上げたミツキのうる硝子玉がらすだまのような瞳を見つめると、僕は完全に彼女のことが好きなのだと自覚した。いくら後悔しようが、どんなに脳を再起動しようが、もう取り返しがつかない。ああだめだ。



「お願い。もう少しだけ……こうしていたいの」



 移動したソファで肩を寄せ合って、僕はミツキの体温を感じた。絡みつく指は恐ろしく冷たいのに、ミツキの火照った身体は僕の身を焦がしていく。ミツキのほほが僕の胸に押し当てられると、僕は自分の心臓の音を隠したくなった。



「ここは安全だから、絶対に大丈夫だから。一人にしないから、だから……」



 一人にしない。だから……僕のそばにいて。自分勝手だとは思いつつも、僕もミツキに甘えてしまう。こんなにも愛おしいとは思わなかった。こんなにもつらいとは思わなかった。ミツキの絹のような髪が、僕の腕をでていく。



 ミツキとは、うまくいくはずがない。彼女は謹慎中であったとしてもアイドルだ。僕が彼女を壊してしまうわけにはいかない。そう、彼女は未だ、この大海原を悠々と泳いでいるのだから。いつか必ず浮上して水面からドルフィンジャンプを決めて、僕の中から消えていく。波打ち際の泡のように。はかなく。——切なく。



 なのに。なのに、ミツキは僕の腕の中で今にも眠りに就こうとしている。きめ細かな肌が、ほんのりと朱色を帯びて、薄い桃色の唇がわずかに開く。長いまつげの下の硝子細工はうつろで、強く抱きしめれば割れてしまいそう。



「シュン君。なんで夜は暗いんだろうね。こんなに怖いなんて、知らなかったの」


「電気点けようか?」



 ミツキはゆっくりとかぶりを振って、再び僕の腰に手を回すと強く抱きしめる。鼻をすする音が止んだかと思うと、しばらく沈黙した。そして、ゆっくりと顔を上げて呟く。



「シュン君お願い。————して……」



 だが、僕はできそうにない。だって、ミツキは僕をどう思っているの? 一時的な感情で僕を縛り付けるの? 僕は、君を幸せにできない。きっと。



「ごめん。それはできないよ。僕は————ミツキちゃんのこと」


「いいの。分かってる。でも、なんでだろう。シュン君と一緒にいるとつい甘えちゃうね」



 敬語ではないミツキは、僕の知らないミツキだった。たった数日の間にまさかこんなことになるとは思ってもいなかった。



 ミツキは、突然、同じクラスに転校してきた。あの日出会わなければ、こんなに苦しまずに済んだのに。

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