好きって言ったら、付き合ってくれますか?

アールケイ

付き合って、くれますか?

 まだ、青空のみえる空の下、俺は今校舎裏にいる。

 理由は、なんとなくの予想はついている。

 けど、正確なことはわからない。



 俺が高校生になってから、二度目の夏をむかえたある日、いつも通り屋上で昼食をとっていた。

 たぶん、俺が屋上で昼食をとっていることを唯一知っている幼馴染の葵が来て、「今日の放課後、校舎裏にきて?」とそう言った。



 そんなわけで、俺は校舎裏にいる。

 俺の他に生徒は一人もいない。

 というか、もし他にも生徒がいたら、俺も気まずいし、相手も気まずい思いをしたことだろう。

 そんなわけで、校舎裏はしーんと静まりかえっていた。

 未だに来ない、幼馴染の葵が何をしているのか疑問に感じながら、とりあえず待つことにした。

 どんな話なのか気になったから。



 それから数時間……て、遅すぎるっ!

 あれから、スマホをいじったり、葵に連絡を試みたりして、時間を潰していた。

 ちなみに、連絡はとれていない。

 場所が違うのか、それともからかわれだけなのか。

 とにかく、これ以上待つこともできないので、そろそろ帰ろうと思い、準備をし始めた。

 そんなとき、


「悠くん、ごめん……! 先生のお手伝いとか、呼び出しがあったから、その、遅くなっちゃった……」


 やっと、葵は来た。

 俺は、葵のその言葉を聞き、きっとそれが本当のことなんだろうと思う。

 だって、葵はここまで走ってきたのか、息を切らしているし、額には汗が滲んでいる。

 それと、どことは言わないが、あるものが透けて見えている。

 本人は気づいていない様子で、気になりもしてないみたいだが、気づいてしまった俺としては、いろいろなものが高まる感情を抑えるのにとても時間がかかってしまう。

 そんなことを考えていたら、数時間も待たされたことなんて、なんかどうでもいいことのように思えてきた。

 それに、数時間も待たされたことよりも、これから葵がするであろう話の方が気になる。

 だって、きっと葵は俺にだから。

 ここに呼び出した時点で、脳裏にはそのことがよぎった。

 だから、ずっと楽しみで、今日の午後に行われたほとんどの授業が、頭の中に入ってない。

 でも、もし告白されるのなら、そんなことも仕方のない犠牲と思える。

 だって、俺に彼女ができるのだから。

 だから、俺は彼女が話し出すのを待つ。

 彼女が息を整えるまでの、少しの間の沈黙が、妙に長く感じられた。

 そして、息を整えた葵が話し始める。


「ねえ、悠くん。私がもし、もしだよ? 仮定の話だよ?」


「わかった、わかった。仮定の話な」


 俺は、そう念を押され、そう理解することにする。

 そして、葵は俺のもとまで近づいてきて、耳元で囁やくようにこう言った。


「もし、私が悠くんのことを……好きっ……! て、言ったら付き合ってくれる?」


 これは仮定の話だ。

 そうだと理解していても、本当に告白されたような錯覚を覚える。

 いや、実際は仮定の話じゃない。

 きっと、このあと告白したときに成功するかを、知りたいんだ。

 けど、葵があまりにもド直球に言うので、ドキドキと心拍数が上がっていくのがわかる。

 それが、ほぼ密着してるような状態の葵のものなのか、それとも俺のものなのか、わからなかった。

 でもきっと、両方だったんだと思う。

 それぐらいドキドキしていた。

 葵は、俺のことを上目遣いでみながら、そわそわしている。

 そんな葵に、「ああ、付き合うよ」一言そう返した。

 それはあまりにも淡白で、簡素な返しだ。

 けど、きっとこれが一番相手に伝わる。

 変に飾りつけない、単純な返しの方が。

 だって、きっと俺は告白されたら付き合うはずだから。

 今の一言でもドキドキしてしまうのだから、もし、本当の告白だったら、ノータイムで返事をしてるかもしれない。

 それどころか、気絶してるかもしれない。

 俺の返事を聞くと、葵は一歩後ろに下がり、口元に手をあてて、考える素振りを見せる。

 そんな葵の姿を、俺はかわいいなと眺める。

 周りには、草木が生えてるだけで、人は一人もいない。

 それに、ここには下校する人たちの喋り声も、運動部の活動している声も聞こえてこない。

 そんな、無音の中、葵はなにかを言おうとして、やめを繰り返している。

 きっと、告白するだけの勇気がでないのだ。

 だって、怖いから。

 あのときはああ言っていたとしても、次聞いたときに、同じ解答が返ってくるとは限らない。

 だから、怖い。

 そして、俺が思ってる何百倍もの勇気がいる。

 すると、葵の様子が急に変化する。

 そのときの葵は、まるで恋する乙女が、を待っているようだった。

 しばらくして、葵はなにかを諦めたような反応をみせる。

 その様子は、呆れているようだった。

 そして、一度満面の笑みを見せると、


「やっぱり、は言わない」


 そう言った。

 俺は、想像もしていなかった展開に、俺は誰がみても明らかなぐらい、動揺してしまった。

 そんな俺をみても変わらず、話は終わりと言わんばかりに、葵は行ってしまう。

 そんな、葵の後ろ姿は、どこか悲しそうで、それでいて寂しそうで、で。

 俺はそんな葵を呆然と眺めながら、考える。


 俺が夢を見ていただけなのか?

 俺が一人勝手に舞い上がっていただけなのか?

 今日の葵のことを思い出してみる。

 いつもならしないようなミスをしたり、どこかそわそわしていたり、それでいてなにかを覚悟していて……。


 そして、俺はこのとき始めて気づいた。

 葵がどうしてほしかったのか。

 それに気づいたとき、葵は見えなくなりそうなほど遠くに行ってしまっていたけれど、大声で、


「葵……!」


 そう叫んだ。

 世界のどこにいても聞こえるような大声で。

 その声が聞こえたのか、葵は一度歩みを止める。

 けど、俺はなにを言えばいいのかわからなかった。

 とりあえず、葵を止めるのに無我夢中で、このあとのことを考えていなかった。

 いろんなことからの焦りが、俺の思考を邪魔する。

 そのせいで、なんて言えばいのかまとまらない。

 だから、俺は考えることをやめた。

 そのかわりに、俺は今の自分の正直な気持ちを、正直に伝えることにする。


「俺は、葵のことが、好きだ! どこが好きなのかって、聞かれたら、わからない。だって、葵の全てが好きだから。だから、俺と付き合ってくれ……!」


 思ったことを素直に口にする。

 だから、言い終わったあと、俺は顔から火が出そうなほど真っ赤にさせていた。

 とてつもなくダサい。

 けど、それが俺なんだ。

 そして、葵は振り向くと、こっちに向かって歩き出したた。

 そんな葵を、俺は見つめる。

 近づいて来るにつれて、葵は少し涙目になっていた。

 そして、そんな葵は口を開くとこう言った。


「本当、遅い。遅すぎだよ、鈍感!」


 そのあと、葵は嬉しそうに微笑んでから、


「喜んで」


 そう言ってくれた。

 その言葉に俺は安心する。

 それと、肩の荷がおりたような、脱力感がおとずれた。

 そして、そのときの葵の顔は、とびっきりの笑顔で、今まで見てきたなかでも、一番可愛かった。

 俺はそんな葵の笑顔を、なにがあっても守ると、心の中で誓った。



 空が赤く染まり、一番星が見え始める頃、俺と葵は仲良く手をつないで下校していた。

 どっちから手をつなごうと言ったわけじゃない。

 ただ、自然と手をつないでいた。

 そんな俺たちは、付き合い始めた初々しさは欠片もなく、長年付き合ってるカップルさながら、他愛のない話に花を咲かせていた。

 そこに、キラキラと輝くなにかを感じながら。

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