妖の旦那様 (現代ファンタジー)
『アナタは妖怪だけど、心は人間だ』
妖怪ものの漫画で、こんなセリフがありますよね。
たぶん良い事を言っているつもりなのでしょうけど、私はこれが、あまり好きではありません。
これってつまり、基本的に人間は正しい心を持った良いモン、妖怪は悪い心を持った悪モンって考えがなきゃ、成立しないでしょ。
人間にも妖怪にも、良いモンもいれば悪モンもいて、心に差はないっていうのに。
私が初めて妖怪と会ったのは、十六の時でした。
当時傾きかけだった会社を経営した私と私の両親の元に現れた、狐の
彼は両親に、こんな取引を持ち掛けてきました。
『お前達に大金をやろう。会社を建て直してやるから、ワシの孫の嫁として、娘を差し出せ』
鋭い目を向けられて、私は震えあがりましたけど、両親は大喜び。
元々私の事を厄介者扱いしていた両親は、これを二つ返事で承諾して。まるで追い出すみたいに、私をお嫁に出しました。
突然未知の存在と暮らさなければならなくなった私の気持ちなんて、考えもしないで。
幼い頃、純白のウエディングドレスに、憧れた事がありました。
いつか素敵な男性と巡り合えて、素敵な結婚をするんだって。しかし現実はそうはいきません。私は涙で顔を濡らしながら、花嫁衣装に袖を通しました。
……だけどあれから幾年。一匹の狐が私の膝を枕にして、気持ち良さそうに眠っていて。その安らかな顔を見ると、思わず笑みが零れます。
優しくて可愛らしくて、そして愛しい、私の旦那様。
お嫁に来たばかりの頃、怖がってばかりだった私に、たくさんの幸せをくれました。
『こんな事になってしまってゴメン。僕の事は、好きにならなくても構わない。だけど僕は必ず、君を幸せにするから』
最初会った時はとても申し訳なさそうな顔をして、そんな事を言ってくれましたっけ。
おじいさまとは違って、とても穏やかで優しいアナタ。そんなアナタだから、私は好きになれたのです。
「きゅぅぅん」
寝ぼけた声で鳴くアナタ頭を、そっと撫でます。ふふふ、可愛い。
幼い頃に夢見ていたような、望んだ形での結婚ではなかったけれど、今なら言えます。
アナタと一緒になれて、私はとても幸せです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます