第271話 後後146 秋の終わりな時分に


トリミングにおいては心配も不満もなくなったガク。

朝からニコニコとご機嫌でモフっている。

湯の花のおかげでダニがついてる者も見ない。

最近の村の食事は特に良い。だから状態はベストに近い。

なので、トリミングの結果はかなりピカピカのさらさらのもふもふだ!!


老人たちの毛皮も見違えるようになってきてて、手入れがあまりされていない街の獣人の毛皮よりもよいくらいだ。

が、

ガクのモフりは老人だろうと子供だろうと若者だろうと幼児だろうと全て平等扱いなのだ!

まぁ、老狼よりは幼狼の毛並みの方がよほど気持ち良いので、やっぱそっち優先になるのは仕方がないとても自然でナチュラルで当然至極なのだ!!

ちなみにトリミングの客層は、

朝はひまな老狼人たち、午後は子どもたちメインに他時間があいた者たちとかになっている。


ガクがそんな満足な毎日を送れるようになり始める頃、




農国に移住したヤマトさん。(後後118話〜)

農国王都から北西に一日二日ほどの小さな街オーウト(中32話)に住んでいる。

ガクも泉も、この街は居心地よくて気に入っていた。静かだし。

更に森も多いので食材も豊富。獣もよく穫れるという。魔獣はでない?とかいう話だったかな?安全だった。


で、移住してすぐに何ができるかな?

というと、男でが3世代(ヤマトの嫁の父、ヤマト、ヤマトの息子)いるので、狩りと採取だろう。


特に秋は獣も山のものも豊富で、冬を前にいくら取ってきても売れないことはなかった。

肉などは売れなかったら燻し干し肉(スモーク)にしようと思っていたヤマトだが、残らなかった。

きのこも木の実も残ったら吊るして乾燥させて冬用にしようと思ったが、残らなかった。

幸いきのこは東の大陸のとほぼ一緒だったので見分けの経験は役に立っている。


あの大陸では銃も出始めていたが、高いし、弾も使い捨てなので無駄だし、、とヤマトは使わなかった。

地元の鍛冶屋であれこて試してもらってどうにか作ってもらった刀っぽいものを愛用している。

武国に行けばホンモノがあるけど、ヤマトはそれを知らないし、泉もガクもヤマトが刀を愛用してるなんて知らなかった。


じいさんと息子は”剣”だ。無骨で気を使わないでいい鈍器系刃物。


今日も3人でヤマト考案の背負子を背負い、山に入る。


基本、3人共無口。

なので、山に入ってから降りてくるまで、特に息子は「気づいたら一言も口を聞いていなかった」なんてこともあるくらい皆無口。


一家は嫁さんが元気だからなんか成り立ってるかな?とか思えるくらいだ。娘もいるが、嫁さんほど陽気ではない。どっちかというと妖気かもしれない。

でもこの男3人でも山で一週間とか普通に過ごしてるけどね。


山の獲物は重い。

なので現地の川で捌く。使えないところは埋めるか魚の餌になる。埋められるものは埋める。

重さが3−4割減ったりすることもある。にくと毛皮を持って帰る。

腐敗しないような葉っぱに包んでも、朝晩は気温が低くても、そう何日も生肉は保たない。

なので、入ってから3−4日で降りてくる。大概満載。山小屋のボッカみたいに背負子に大量に積んで戻ってくる。


で、市場の隅でそれを売りさばき、また3人で山に入る。

これの繰り返しをしてきた。


こんどの冬が、ヤマト一家にとっての初冬だ。

娘のほうは、ふふふ楽しみ、とか言ってるが、男たちは「何をすりゃいーんだ?」だろう。

なので市場でモノを売っているときに、隣の者に訊いてみた。


なんのことはない、冬でも獲物は少ないがいるという。もちろん採取のほうは無い。

が、暇な男たちは藁や竹や木を素材にして”物を作る”という。

なので帰りにノミなど足りない物を買って帰った男たち。彼らも基本的に、道具ってのは好きなのだ。


だが、買った道具を使うのは「雪が降って暇になったら」だ。それまで我慢し、我慢し、その日を待つことを楽しむ。

それまでは今までどおり、良い獲物を狩り、よい森の恵みを採取し、持って帰ってくる。


秋なので当然だが熊も冬眠に備えて活発になってたり、、

ラッキーなことにそういうのに遭遇すると、その無表情の顔にも一瞬笑みが浮かぶ。

そのメンツでは、息子はまだ一人では大きな熊を狩れないが、ヤマトも義父も一人で狩れる。もともと狩人だ、2人で魔獣でさえ狩っていた。

熊は毛皮も内蔵の一部も良い値で売れる。肉は硬いが調理法でどうにかそこそこ美味くなる。


この秋も、熊は大型なのを3頭狩れた。

3頭目を市場で売り切った晩、オーウトの街に初雪が降った。


ーー


いずみ村にも小館村にも、ほとんど雪は降らない。

だが、霜柱くらい立つ日はある。


「いや、おふとんから出たくない、、、」

朝は暖房が弱まっている。薪をくべ続けていないからね。


そんなガクのふとんを引っぺがし、ずるずると無情に泉がガクを引っ張って布団から出す。

仕方がないので着替えて木剣を持つ。着替えは厚着はしない。汗をひどくかいたので懲りたのだ。羽織るもの一枚羽織っているだけ。手袋も同じ。なので素手。

まだ日が出ていない。明るいけど、日差しは無い。


ざくざく、今日も霜柱元気です、最近寒い日多くないですか?なんか氷河期に向かうんでしょうか?

などと思いながらガクは、ぬかるみでも濡れない冬用の履物で広場に向かう。

朝の鍛錬に来る者達が多いので、かなり以前から、今迄のそんちょ屋敷前庭からこのそんちょ宅横の畑を潰した広場に移っていた。

広場なので土は固まりきっててほとんど霜柱は立たない。それだけが救いかな?とか思うガク。


鍛錬を始めれば、ほどなく体はあたたまる。若さの特権かな。老人になるとそうやすやすと動くだけで温まるなんてなぁ?特に手足は厳しいし、、、


いくら寒くても汗かくほどの鍛錬なので、着替えを持って風呂に行き、帰りに朝飯を食って帰ってくる。

家に入る時にモフ小屋の前の看板を”開店”にする。


あらいものをかごに放り込み、木剣を壁に立てかけ、午前中はこの家は幼児達の勉強部屋になるので暖房に薪を多めにくべてから、ガクはとなりの小屋に向かう。


小屋の暖房の窯に火を入れ、薪を入れ始める頃になると、

ほどなく、やはり風呂から上がってきた獣人連中がガクの小屋を訪れる。


朝早くは老人狼達が多くなってる。

部屋があたたまるまで茶を出し、だべる。

さむくなったねぇ、、でも以前よりはきつくなくなったよ、、と、老

狩りを始めたからだ。毛皮の張りが全く違う。脂肪も多くなり防寒性能もよくなってるんだろよ、羨ましいな!とガク。


部屋があたたまったらトリミングの開始。毛皮が寒さで硬いとよくないからね!

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