第187話 後後62 絶滅村
走ってきた狼は野上班の人狼で、泉さんに報告した。
「報告します!この水路沿いに我々の足で走って一刻ほどのところに集落を発見しました。生存者は前回よりは多数。ですが、やはり前回と似たような状態です。水は川が在りますが、薪も、雑草すら無いありさまです。軍人らしき者は皆無。」
・・・・
「わかった。疲れているだろうところを悪いんだが、、領主様のところに走ってくれるか?」泉さん
「承知しました。今のことをそのまま報告すればいいのですね?」
「そうだ。頼む!」
「はっ!!」
ダッ!!
即座に、矢のように、疾風のように跳んで行った。
「それでは、俺らは早足でいくぞ」泉さん
「「はい!」」
ーー
結局俺らの馬を疾駆けにしてしまい、一刻ちょいで現地に付いた。
野上達が廃屋の残骸の戸板を使い、生き残っている者達を集めていた。
えらい有様だ、、、
家屋の一部が残っているのは、もう薪すら使えないほど弱っている者しかいないことを表す。
集められた者達もじっとしていなければ体力消耗してしまうのに、必要も無いのにわずかにでも這って、土やごみを口に入れようとしいているが、もう手もろくにうごかない。目もあまり見えていないように見える。
反射で動いているのか?
「多分、半数も助からないな、、手遅れだ」泉さん
泉さんが、
野上たちに、飢餓者一人ひとりに水を浸した布を口に付けさせ、その様子を見て、水が飲めそうな者には、さじで少しずつ口に入れてやるように指示を出す。飲めそうにも無い者は、そのまま布に水をしみこませたもので、根気よく少しづつ水をとらせるようにと。
俺と泉さんは、廃屋の竈を利用し持ってきた薪で火をおこし、鍋釜を拾ってきて湯を沸かす。
干し肉を小刀で粉のように細かく削り、湯の中に入れていく。乾燥野菜も鉢と小刀の柄で潰して粉にして入れる。塩を入れる。
大きくもない鍋2つにそれができはじめたのは、俺らが来てから半刻くらいたってから。
その間にも一人死んだ。
助けが来た、と、無意識下でさえ認識して、それがギリギリ生きていた者であれば、安心して死んでしまうこともある、と聞いたか読んだかしたことがあったことを思い出した。
それから一刻ほど経って、東武軍の先行隊が来てくれた。天幕、食料、鍋、薪、を持ってきてくれて。
俺らが作ったうすい粥に水を足し、ぬるくし、水をさじで飲むことができた者達に飲ませ始めた。
が、半数は飲み込むことができなかった。水くらいは幾分入っていくが、ほぼむせ、むせたらそのまま死ぬ者もいた。
ホントに蜘蛛の糸一本で生きているくらいだ。
生きている者は全員で10名もいなかった。今見る処、助かりそうなのは3名ほどだろうか。と、泉は思った。
昔、剣の修行の旅先で見た有様を、思い出していた。
あの時は、その村のあちこちに、人を食ったあとがあったのが、悲惨さを更にでかくしていた。
でも、一方で「俺の村でなくてよかった」という思いも、心からわきでてきていた。
今思うと、あの飢饉でもさほど被害を出さない村もあった。
被害が大きい村は、なるべくしてなった感も、、、、
ここは、大規模に水路を引く、ということをやっていた。
だから10人位、今の今まで生き残ったのだろう。
もしかしたら備蓄もあったのかもしれない。対策をしていた村なのかもしれない。
、、、多分、そうだったのだろう。
他の土地は、骨さえも見当たらない荒野になりきっているのだから。
(骨はそのままでは風化はしにくく、腰骨や大腿骨などは重い。その頃には獣がまだいたか、台風のような大風で吹き飛ばされたか。ただ、土地の状態を考えると、雨を伴った大風はほぼ無いように見える。
大半の人間は、何処かに逃げたのだろうか?)
ーー
2刻ほど経って、領軍全軍が到着した。
領主様は絶句の後、
「これほどのは、はじめて目にした・・」
「ですが、この村は、多分、備蓄など、飢饉に備えていたと思われます。井戸のみではなく、水路を引いていた、ということも、彼らがそれなりにできる土地の者達だった、ということでしょう。
でなければ、、」泉
「・・・ああ、もう、とっくに風化して砂にでもなっていたことだろう。
2,いや、3年くらいは食いつないで生き延びたんだろうよ。」領主
「はい、、」
その対策されたこの村でさえもの、最後の飢餓状態のとき、水路に水を飲みに来てそのまま死んだ者も少なくなかっただろ。その死骸も骨も全て流され浄化され、キレイになった水が流れている水路。2−3年ではきかない期間だったのではないだろうか。
この、備蓄さえされていた村が飢餓に陥り、そこからどんなに最低でも2年以上はたっているはず。
そこを今日まで生き延びた者達、この土地に冬が無いのが災いし、すんなり死ねなかったのだろう、、、
ーー
全軍の将兵が、この様子を見た。見てしまった。
こんな様子じゃ、この国がほとんど似たようなもんだろう、と思うのは当然だ。
雑草さえ食い尽くしている。
他に豊かな土地があったとしても、そこに逃げていった多数の者達。最後にはそこでも雑草をくう有様になったことだろう。
一種のイナゴの大群みたいなものか、、、
土地もぼろぼろになり、再生など、自然にまかせて放置するのが最も良い、と、全ての百姓が言い切るほどの土地、のみ、の国になっているだろう、と、誰もが思う。思って当然だ。
「俺らの国は、冬があって幸せだ。」
「ああ、ここまでにならず、死ねる」
「うんだ、、」
兵たちは、百姓が多い。田畑以外にも養殖や工芸などもするが、本業は百姓だ。
ここまで破壊された自然を、よくわかることができている。
「帰りてぇ、、」
一人の兵がポツンと言った。
言ってしまった。
周囲の者達は、皆聞こえないふりをした。
今、そう思ってはいけないのだ。ここにいるときは自分は田畑を相手にしている百姓ではない。
兵隊なのだから。
領主様含め、全軍、絶望感が広まる。 戦ではない戦。
ーー
この雰囲気に抵抗したのが泉さん。
なんでぇなんでぇ!湿気た面しやがって!
お前ら戦闘しに来たんじゃねーのか?
敵が居なくって、敵がよわくて、湿気た面するならわかるが、
敵の自爆見て、湿気た面するな!
幸い俺達には食料も水もある。俺達がここで飢えることは無い。
俺らの国は、もう今は飢饉がおきることもない!日照りでも、海から食料が来る!
雨が多くて枯れても、ほかの土地から食い物は来る。
街道が整ってるんだ!馬車が良くなってるんだ!
国の半分で耕作ができなくなっても、どうにかなるわ!
俺らの国は、こことは違うんだ!
おまえら、ここを俺らの国と一緒に考えるんじゃあねえ!!
さあ!竈に火を起こせ!鍋をかけ、湯をわかせ!干し肉を、干し野菜を、塩をぶちこみ、お前らの食事を作れ!腹いっぱいたべろ!!
俺らには飢饉はねぇえ!!!
さあ、うごけ!!
百姓が染み付き、武士が染み付いている男。
元の世界の名前、白泉・杜
百姓という職業は、本気で取り組んでいると、自分に自信を持つ。経験の多さで、苦労の多さで勝手に自信ができてくる。
でも、
ながされ、考えなしに、おそわったことだけをやっているだけの者だと、ちょいと嵐が来ただけで嘆くだけの者に成り下がる。
百姓は自然を相手にする仕事だ。嘘は通じない、脅しも通じない。しかも、先読みできないと、いつか死ぬ。
泉さんは、本物の百姓になるべき者、でもあったんだろうな。とガクは思う。
俺は後者、現代百姓だから、、薬と合成肥料漬けの土地しかしらないしw
嘘です、山あったからすんげーいい土もしってますw
でも、似非なことにはかわりない。泉さんや、この世界の本物の百姓たちと比べりゃな。
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