第79話 後−6 ノンストップおっさん少女の食い気
ここは本当に小さな街だ。
市場を中心に商店がある道が広がる。その範囲は、一日あればだいたい見て回れるほど。
その外部に、普通の家がポツポツ立ち並ぶ。その家々には畑がある。中央市場の朝の野菜売りは、ほとんどここらの者たちだという。
「魔獣や猛獣の防護柵も見えないけど、」とそこらの者に訊くと、いままで出たことは無いと。
出てもイノシシや鹿程度だとのこと。
魔獣は生息地域が限られているからわかるが、猛獣もそういうのがあるのだろうか。まぁあるんだろうなぁ。
少々標高が高いので、冬には雪が積もるという。そしたら馬車の車輪がソリに変わる。
山脈の南側なので、積もることは積もるが、日常生活が出来る程度の「ほどほどだぁな」だと。
冬があるのと、土地がいいので、麦はいいものが収穫される。肉類は森からも得られ、ほぼ自給自足が成り立っているとのこと。村の南の斜面には「茶畑もあるぞ?ここらの茶は香りが良くて国内でも人気だ」と。
また、北側ではヤギ、羊、牛、などが放牧されている。
乳、肉、毛皮、毛、が得られる。バター、チーズも自家製だと。
「だから、菓子類もうまいんだ」と自慢げな喫茶店の者たち。
特に秀でた何かがあるわけではない。
が、
彼らは、自分の街が自分達でしっかり立っている。自立できている、ということが自慢なのだ。
と、数日滞在して気がついた。
「おまえが来る前の小館村。自立と言えたかどうか、というほどの貧相な村だったと聞く。
確かに自分達で作ったもの、森や川から取ったものだけで生きてきたろう。だが、生きる歓びは当時の者たちは得ていたろうか?
そこだろ?」
と泉さん。
この街の者たちは、食べて生きるだけではなく、同時に生きる歓びをも自分たちで生み出しているのだ。
だから誇らしげに成ってるんだな。無意識に。
ま、きのこのラザニアおいしいけどね。塩と胡椒だけの鹿の串焼き美味いけどね。他の街にもあった。多分多くの街と同じだろう。が、ここのはここの旨さがある。他と同じではない。
元の世界のことを出すのは嫌だが、、量産されたまがい物ではないのだ、ここのものは。
この世界には、量産されたまがい物はまだ無いのだ。そういう物を作る者はいないし、量産がはじまっても、それを買う者は限られるだろう。積極的に買う者はいないだろう。刑務所くらいか。軍隊も敬遠するだろう。待遇もそうだが、何より「うまい飯」の軍は人気なのだ。
あの峠の宿屋のように、あのジジのカレーのように、
同じ素材を使っても、丁寧に、考えて、素材を可能な限り活かして料理をする。
そうすれば、今までよりも倍もうまくなる。
それをあの峠の宿からはじまって、各地で見てきた。
やっとそれらにまともに気づいたのが今日ってことだ。
俺も、小館に帰ったら、皆とよく考えなければなー。
で、
こっちに居るときは、こっちの良さ、旨さを存分に味あわなければ罰が当たるってもんだ!
小さい街だが、なぜか喫茶店が多いのはほかも一緒。
いや、なぜか、じゃないんだけどね?農国人は菓子が大好き、ケーキが大好き。だから喫茶店が多いだけなんだけどね♪
で、今その喫茶店。クリームシチュー食い終わってケーキ食っている。抹茶とブルーベリーのケーキとブルーベリークリームシューと木苺とブルーベリーのパイを頼んだ泉さんと、草団子!があったのでそれと番茶を頼んだ俺。
あれ?
「ソー言えば、ちっさい村って見たこと無いですね?農国入ってから」
「アレだろ?雪が降るからだろ?」泉さん
???
「昔だよ。まだ今ほど寒さに対抗できない頃、人数が小さい集落だと、少し何か問題があっただけでも対処できないかったりするだろ?ネズミが大量発生とか、穀物カビた、とか、病気、とか、、冬は脚気になりゃすかったとかあったよな?」
「ああ、、、なるほど、、ある程度以上の大きさの集団に成ると、何か問題が在っても存在継続出来る可能性が格段に高くなる、と。」
「ああ、ソレの最小限度が、この街程度なんじゃないかな?」泉さん
なるほどなー、、、
恐るべし”冬”っつ!!
「ま、春が一番難儀な季節なんだがな・・」
「え?」
「いや、俺、東北の出身でな、、雪崩は起きるわ、道はぐちゃぐちゃで荷馬車がダメだわ、、そーいった冬の後始末が終わるのが大体6月ころかなぁ、、春が一番嫌いだったwあはっはっはっは!」
凍え死ぬ冬より嫌われる春かよ、、、なんか冬のせいで不憫なやつ、、、
一応地雷覚悟で、、
「泉さんの故郷って、なんか甘いものあったんすか?」
「・・・食った覚えないな、、貧乏もいーとこだったからなぁ、、よく生きてたもんだよ、、、
あ、でも、なんか名物はあったという話を聞いたことがあったなぁ、、、なんだっけ?」
ごめんなさい、訊いてごめんなさい!!!
そうだよね、日本は近代まですっげーんだったんだよね、、60年台まで奴隷が合法だったアメリカより法制上はましだったけど、実体はおしんだったんだよね、、、おしんはまだマシな方だという話だけど、、
「だからな、わしは、あそこで死んで幸運だった。」
実感こもっているよなぁ、、、
こんな事言われちゃー、あの公爵への詫びもあるし、、泉さんの食い物には待ったをかけられないなぁ、、
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