『小さなお話し』 その129

やましん(テンパー)

『窮窮箱』


 『元気さんが出るお茶』の効用で、しばらくはこの世に生きてきたやましんさんなのでしたけれど、あれから一年くらい経つと、再び苦しくなってきたのです。


 『元気さんが出るお茶』は、何時までも効果があるという訳ではないようでした。


 そこで、やましんさんは、再びあの小屋に尋ねて行きたくなりました。


 しかし、古くからある伝説においても、二度目を尋ね当てたという話は、なかなかありません。


 こうした伝説は、『隠れ里』とか『マヨイガ』とか、『竜宮』とか、呼ばれるようであります。


 そこで入手したお椀などは、持って帰って保管しておくのが大方の習わしのようなことになっております。


 やましんさんも、あのお茶碗はもってかえるべきだったのかしら、と、考えてもみたりもいたしました。


 ちなみに、イギリスでは、コナン・ドイル氏が同様のお話を書いていますから、欧州にも、そうした伝説があるのでしょう。


 そこで、意を決して、もう一回、あの『元気山』に出かけることにいたしました。(参照・・・『元気さんがいなくなった』)


 前回と同じように、電車とバスとタクシーを乗り継いで、あの場所に向かったのです。



  ********   🚌  *****



 しかし、そこは、もはや以前のような場所ではありませんでした。


 明らかに、さんみつ状態です。


 小さなお山の頂上に向かって、マスクをした、沢山の人で、長い長い列が出来ていたのです。


 『こ、これは、なんですか?』


 やましんさんは、最後のあたりの人に尋ねました。


 『ああ、『元気さんが出るお茶家』に入るのを待ってるんです。飲むと元気が本当に出るということで、秘かに人気なんですよ。でも、そこは小さな小屋なので、なかなか順番が来ないのです。』


 『あらまあ・・・・・・・』


 行列は、遥かに山の上まで続いておりました。


 やましんさんは、諦めました。


 とても、無理です。


 暑い暑い日でした。


 たどり着くまでに、倒れてしまうでしょう。


 後ろ髪を引かれるような思いで、あきらめて、帰りかけましたが、こんどは、山の向こう側のバス停が、またまた、長蛇の列です。

 

 『あらま~~~~~~~~。』


 やましんさんは、ぼつぼつ、もうひとつの山を歩き始めました。


 あまり、どうするというような、当てはありません。


 並んで待ってた方が、良かったかもしれません。


 まあ、もう、最後でもいいや、と、思いました。



 すると、突然に、後ろから声がかかりました。


 『あの、やましんさん。』


 それは、あのとき、お茶を運んできた女の人でした。


 『あなたを、お待ちしていました。今度。ご主人の気まぐれで、ちょっとだけ、お店にいたしましたの。ときに、あのとき、あなたは、お茶碗を置いて帰りました。あなただけです。そこで、この『《窮窮箱》を差し上げましょう。これは、もう、これで人生終わりがきた。もはや、これまで。となった時に、開けてください。お役に立つでしょう。ただし、使えるのは、一回きりです。では、御元気で。お茶屋は、今日で閉めます。たぶん、もう、あそこでのサービスはしません。あ、このお茶。どうぞ、お飲みください。『元気さんの出るお茶』です。やましんさんは、お得意割で、500ドリムです。』


『ども。』 


 やましんさんは、お茶を頂きました。


 それは、もう、たいへんに、おいしかったのです。



 

 ********** 🍵 **********



 気が付くと、やましんさんは、道路の途中の大きな倒木に座って、伸びておりました。


 手元には、あの小さな箱と、お茶碗がありました。


 さらに、小ぶりな『お茶パック』の入った箱も、ありました。


 そこに、たまたま、タクシーが来ました。


 『あんたも、お茶に来たのかもな?』


 『はい。でも、あまりに人が多くて。』


 『あそこは、急に人気になって、一週間だけやって、今日で閉店だとさ。なんだか、仙人様の店とか言われてなんず。お茶いっぱい、700ドリムだとさも。でも、効果はてきめんだどか。』


 『いやあ、あれだけ並んだら、効果出るに、違いないですよ。』


 『うんだ。はははははははははははは。』



 やましんさんは、その、美しい虹のような模様の入った箱は、仏壇の裏にしまい込み、まあ、ちょとだけ元気が出たので、また、お話しを書き始めました。




   ******************   🍵 おしまい

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『小さなお話し』 その129 やましん(テンパー) @yamashin-2

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