さぁ~、浮足立ってまいりましたぁ
私、西浜景は今日も今日とてカレーを煮込む。ぐつぐつ、ぐつぐつ。
先日のあの人は何だったのだろうか。翻訳家の浅井さんのお宅で出会ったよその会社の南雲さんという男性。浅井さんと食べていたカレーを出したら『おいしい、毎日食べたい』と驚くくらいの速度で平らげていた。なんていうかすごく嬉しかった。今一緒に住んでいる友人も毎食美味しいと食べてくれる。でも男性の食べっぷりは違う。あんなに美味しそうに食べてもらえるのはやはり嬉しい。
「お、いいにおいするねえ」
「もうすぐできるよ」
「気になってる?」
「なにが?」
「カレーの君」
「なにそれ」
古臭い言い方に思わず吹き出す。
「気になってるから、またカレーなのかと」
「それがないとは言わないけどね」
でも今作っているカレーをランチに持っていく予定はないし、しばらく浅井さんのお宅に伺う用事もない。だからこれを南雲さんが食べることはない。……そう思っている時点で気にしているということなのだろうけど。
「いい事だと思うよ。わたしは」
「そう?」
「うん、あんなやつれてた景がこうやって生き生きとしてるんだもん。友達としては嬉しいよ」
「そっか。ありがと」
「そう言えばその人何て言うの? あ、ごめん。電話。はいはい、南雲くん?」
「んんん!?」
え、なにそれ? なんだそれ!?
「景、どうしたの」
「カレーの人、南雲さんって」
「え、マジ? もしもし? 南雲くん最近翻訳家の先生の家でカレー食べた?」
友人の電話が終わるのを待つ。こんな偶然ってあるんだっけ????
「景~南雲くんカレー食べに来るって~」
「え、えーーーー」
こんな偶然あるんだっけ? 私はお玉を握りしめて口をパクパクさせることしかできなかった。
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