どんどん近づくさよならの日
いつまでも一緒にいられるわけではない。そのことに気付くのがとても遅かった。わたしはもうすぐ引っ越してしまう。大学に進学するにあたって一人暮らしを始めるのだ。だから今一緒に住んでいる彼女とはもうお別れ。彼女はあまり若くないからもう会えないかもしれない。
「さびしいねえ」
にゃー
「でも一緒には行けないんだ。ペット不可だし」
にゃー
「だから引越しの日までたくさん撫でさせて」
にゃー
いつもだったらするっといなくなっちゃう彼女は今日はずっと隣にいてくれた。さびしいな。だってわたしが初めての彼氏にこっぴどく振られた日、彼女は同じベッドで一緒に寝てくれた。受験の朝も誰より早く起こしに来てくれて、帰ってきたときも一番に出迎えてくれた。ずっと一緒にいたいのに、わたしが人間で彼女が猫だから一緒にいられないんだ。
違うね。わたしとあなたが違う生き物だからだね。彼女が人間でもわたしが猫でも、ずっと一緒にいられるかどうかはわからない。だって一人暮らしを始めたら、それこそ親兄弟とも別々だもの。
「さびしいな」
そう言うと彼女はやっぱりにゃーと言ってわたしの足に頭を乗せてうとうとし始めた。わたしも一緒に寝てしまおうか。でも寝ちゃったら時間が減ってしまうな。でもでも、すごく眠いな。
「ふわー眠い。少しだけならいいかな」
そうしてわたしはすこんと寝てしまった。
夢の中でもわたしは彼女を撫でていた。柔らかくて優しい彼女。にゃーとしか言わなくったっていつも寄り添ってくれる大切な彼女。ただただそれだけの夢だけどとても幸せだった。
「あら、こんなところで寝ちゃって」
炬燵で娘と猫が寝ていた。風邪をひかないように炬燵の電源を切って毛布を掛ける。この二人はずっとそうしていた。なにせ娘が生まれた日に旦那が拾ってきた猫なのだ。娘の誕生を喜びながら帰宅したら子猫がポーチで待ち構えていたらしい。それからずっとこの子たちは双子のように育ってきた。猫の方が少しお姉さんぶっていたかもしれない。
「こんな姿も最後かしらね」
娘は知らないであろう。夜遅くになると旦那が猫相手にさみしいさみしいと言いながら晩酌をしていることなど。
さよならの日が近づいてさみしいのはみんな一緒なのだ。
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