風の中に柔らかさを見つける
それは突然告げられた。
「彼のことは知っているでしょう? パパの従兄のお家の」
「お前と同じ歳でな。だからちょうどいいだろう」
「学校での成績もとても良いんですって。あなたも見習いなさい」
「彼は次男だから本家を継ぐわけではないが、それでも家業の補佐として期待されている」
「あなたも彼を支えてしっかり本家を守るのよ」
そう両親に言われて彼がわたしの許婚であることが知らされた。中学1年生の正月に本家に挨拶に行った時の話だ。
その時に久しぶりに会った彼はどこかぼんやりした雰囲気で正直何の面白みもない男の子だった。同じクラスの男の子みたいに馬鹿笑いをしたりふざけたりセクシー女優の雑誌をめくったりしそうにない、静かな子。新鮮ではあった。わたしもいつかクラスにいるバカみたいな男子のうちの誰かを好きになって、仲良くなってってなるのかと思ったらそうではなかった。そのことに少し安心もあった。あのクラスメイトの馬鹿っぽさに付き合う気にはなれなかったから。
その後お互いの両親に『仲良く宿題でもしなさい』と二人きりにされた。彼はやはり静かにテキストとノートを開いて勉強している。横でぼんやりするのも気が引けたのでわたしも持ってきていたテキストとノートを開いた。少し進めたところで彼がこちらを見ていることに気付く。
「そこ、数式間違ってるよ」
「あ、本当だ。ありがと」
「なんかごめん」
「なにが? 間違いを指摘してもらえるの助かるけど」
そうじゃなくて、と彼は渋い顔をする。
「いきなり許婚とか嫌じゃん。女子なら好きな人とかいたりするし」
「親は何言ってんだろうなって感じだけど君のことは別に嫌じゃないよ」
「……」
彼はいぶかしげな顔でこちらをじっと見ている。
「うるさくないし変なこと言わないし。でも確かにいきなり結婚だなんだって言うのは嫌っていうより困る。だってわたし君のこと全然知らないもの」
「まあ、そうだね。俺も君のこと全然知らないや」
許婚どうこうより、よく知りもしない人と仲良くって言われても難しい。だから。
「取り合えず連絡先教えて。そんでたまに遊ぼう」
「いいのかよ、それで」
「いいよ。少なくともわたし、君の顔嫌いじゃないから」
「顔」
「嫌いな顔見ながらごはん食べられないし」
「そりゃそうだ」
彼は笑ってスマホを取り出す。このご時世に許婚って!? って思わなくもないけど、まあそういうこともあるのだろう。親にも本家のお偉方にも言いたいことは沢山あるけど、言うなら二人で言ってやろう。彼には告げず、勝手にそう決めた。
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