131 スパゲティ
食べ物の好みってさ、味の好き嫌いだけじゃなくて食感や匂い、見た目とか総合的に決まると思うんだよ。今日は俺のそんな話。
俺は動物病院の院長なんだけど、この前めちゃくちゃ衰弱した猫が運ばれてきたんだ。確か野良猫だったかな。世話してる人がぐったりしている猫を見つけて連れてきたみたいなんだ。
どこがおかしいかは直ぐに判断がついた。異様に膨れていたんだ。腹がさ。だから即レントゲン検査にかけた。写った影を見て俺は息を飲んだ。腸の中に何かが大量に詰まってた。何かが大量に。勿論緊急手術。
異様に膨れる小腸を切開した時、俺はほんと驚いた。切れ目から大量に溢れ出てきたんだ。回虫が。淡いクリーム色をしたそいつらは居場所を探すように腹腔内でうようよと蠢いていた。それはまるでトマトソースの中を泳ぐスパゲティのようだった。
俺はそいつらを一匹残らず膿盆に移し入れた。膿盆の中でぐにょぐにょと動く回虫。俺はその中から一匹をピンセットで摘まみ上げた。手術室のライトがてらてらと体表を照らす。果てる命を知っているのだろうか、回虫はもてる力を使い切るかのように体をくねらせ続けている。ゼンマイのように丸まったかと思えばピンと体を伸ばしたりとせわしない。ピンセットにかける力を強める。摘まんでいた箇所がプチと小さな音を立て、潰れる。回虫は苦しがる素振りも見せず動き続ける。俺はそいつを膿盆に戻し回虫たちを暫く観察し続けた。一つの塊となった回虫たちはわしゃわしゃと不規則に形を変えていく。
その日からだ。俺の食の好みが変わってしまったのは。あれだけ大量の回虫を見れば誰だって食の好みは変わってしまうだろう。特に俺は……
「あれっ? 院長、また同じ昼ご飯ですか? ほんと飽きませんねぇ」
「俺が何を食ったって別にいいだろう」
看護師にそう答えた俺はフォークをくるくると回した。
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