112 交通事故
「うわっ……ありゃあ交通事故か……」
街灯もない深夜の田舎道。家に帰るため車を飛ばしていると遠くの方に不自然に暗闇を照らす二台の車が見えた。
「……こりゃひでぇ事故だな……」
徐々に近づいていくと、事故の凄惨さが目に飛び込んでくる。道路右の田んぼに落ちている軽自動車は完全に横倒しになっており、運転席側が原形を留めていなかった。泥に沈みかけている助手席側のヘッドライトが田んぼの水面を淡く光らせている。
正面を見るともう一台の軽自動車が自分と同じ車道側に停まっていたのだが180度横に回転したようでヘッドライトはこちらを照らしている。この車も運転席側がひしゃげていて助手席側のヘッドライトだけが光っていた。
恐らくどちらかの車が車線をはみ出し、対向車同士ぶつかってしまったのだろう。
俺は車を止め、警察に電話をした。幸いすぐに駆け付けるという事なので俺は取り合えずけが人がいないかどうか車を確認しようとした。がその時、少し前方の方から言い争うような声が聞こえてきた。車道に停まる事故車の前まで来ると二人のおばさんが言い争っている。
「あんたがはみ出して来たんでしょう!?」
「いいや! あんただ! あんたがはみ出したんだ!」
よく見ると二人とも服はボロボロで頭や腕から血を流している。恐らく双方の車の運転手なのであろう。俺は二人に声をかけた。
「二人とも、ケガはだいじょうぶですか?」
「大丈夫よ大丈夫! それよりねぇ聞いて! あいつ、私が線をはみ出したって言うのよ!」
「実際そうでしょう! あんたの車あんたに似てオンボロだから真っすぐ走れないんでしょう?」
「はあ!? あんたなんてくっさい香水プンプンさせて、どうせ自分の臭さで気持ち悪くなったんでしょう!?」
ケガなどものともせず二人は今にも手を出しそうな勢いで罵り合っている。間に入れずオロオロしていると二人が俺に声をぶつけてきた。
「ねえ! あなたはどう思う? 絶対あいつが悪いわよね?」
「何取り込もうとしてんのよ! ねえ!? あいつが悪いわよね?」
「えっ……あの……」
「はっきりしなさいよ! 事故見てたんでしょ!?」
「いえ……あの……」
「見てた見てた! 絶対見てた! どっちが悪いか分かるでしょう!?」片方のおばさんが俺を指差す。
「そうだそうだ! 見てた見てた! 分かるでしょう分かるでしょう?」もう片方のおばさんも俺を指差した。
「あの……」
「見てた見てたお前は見てた。絶対見てた見てた見てた絶対お前は」
「分かる分かるお前は分かる。絶対分かる分かる分かる絶対お前は」
「あの……俺は今通ったばかりな『絶対あいつが悪い!!』」俺の声は二人のおばさんの声にかき消された。
俺は二人のおばさんに恐怖を感じ、その場を逃げ出してしまった。おばさんの横を通りたくなかった俺は急いで車を回し、来た道を戻った。
次の日の朝、ニュースで深夜の事故を報道していた。昨日俺が出くわした事故だ。それぞれの車に同乗者はおらず、双方どちらに原因があるのか調査中との事だ。運転手の二人は病院先で死亡が確認されたというが、俺は知っている。それは……
「ねえ聞いて! 絶対あいつが悪いはずよ!」
「いいえあんただ! あんたが悪いんだ!」
あの時には二人とも死んでいた事だ。
「「ねえ! 聞いてるの!?」」
ああ……
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