091 運命の天秤

「三人で楽しく生活している姿が見えます」


 よく当たる占い師に夫婦の五年後を占ってもらい私はウキウキした気分で家に帰った。夕食を食べながら旦那にその事を話すと「じゃあ数年で赤ちゃんが見られるって事だよね」と嬉しそうに言葉を返してくれた。


 その一年後、私は子供を妊娠した。結婚して十年目の事だ。中々子宝に恵まれなかった私は大いに喜んだ。そして占い師に感謝した。


 だが、一つ気になる事があった。妊娠した子供は双子だったのだ。旦那にその事を告げると「占いなんて信じるなよ」と素っ気ない返事をもらった。確かに占いが絶対に当たる保障などどこにもない。三人家族の予定が四人になる事もあるだろう――私は自分にそう言い聞かせ、四人で暮らす幸せな未来を想像する事にした。


 しかし三度目の検診後医師で「片方の成長に若干の遅れが見られる」と告げられてしまった。エコー写真を見せてもらい双子を比べてみたのだが私にはそれ程違いは分からなかった。私は一抹の不安を覚え占い師の元へ駆け込んだ。占いの結果は一年前と一緒だった。


 そこから一回、二回と検診を重ねるたび成長の違いが顕著になっていった。片方はすくすくと育っていったが、もう片方は既に成長曲線からも外れ始めていた。エコー写真でも差がはっきりと分かるようになっていた。私は心配になり、何度も旦那に不安をぶつけたのだが安心を得ることは出来なかった。占いの結果も変わることはなかった。


 そして妊娠三十週目を過ぎた頃、検診で片方の心臓が動いていないと言われた。医師には「二卵性なのでもう片方に影響ありませんよ」と励ましなのかどうか分からない言葉をかけられた。私は病院の待合室で泣き崩れてしまった。


 私はその後直ぐに旦那へ電話をかけた。旦那の言葉は「これも運命なんだ。諦めよう」だった。「忙しいから切るね」とも言われた。その言葉を聞き、私は決心する事が出来た。



 初めの占いから五年が過ぎ、私はささやかながら幸せな生活を送っている。私は妊娠後、占いをしたことを何度も後悔していた。占いさえ聞かなければ運命に弄ばれる事はなかったんじゃないか、もしかしたら全てをそのまま受け入れることが出来たんじゃないか、と。だけど……

「ママー、おすなばであそぼお」

 ベンチに座る私の右手を息子がぐいぐいと引っ張る。

「ずるうい、あたしもあそぶぅ」

 娘も負けじと左手を引っ張り始める。「はいはい。みんなで遊びましょ」私は軽く微笑み砂場へ向かった。


 あの日の夜、再検診を無理やり受けさせてもらい娘の心臓が動いているのを医師に確認してもらった。医者は『奇跡だ』とか『診断が間違っていたのか』とか言って驚いていたが私は至って平静だった。その時既に無事な事は確信出来ていたのだから。本当、占い師には感謝だ。

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